なんで、なんで今なの……

 とてもとても遠くに聞こえる声に、わたしはもう一度、彼の声を聞きたかったけど、顔があげても彼の声は聞こえなかった。

「も、基樹……」

 手を取りたかったけどできなかった。

 声を張り上げたかったけど、できなかった。

(なんで……また……)

 なんでまた、チャンスを逃したの……

 本当は、言いたかった。

 言いたかったのだ。

 言いたかったのだ。

 あの日、放課後であの奇跡が起きたあの時から、ずっと言えなかったあの言葉を、わたしは言いたかったのだ。

 ずっと、ずっと好きだったのって。

 この世で一番一番、あなたが大好きだったんだって。

 薄れる彼の姿がさよならを告げる瞬間だとわかった。