「戻ったら、ちゃんと俺ともう一度向き合ってみたら」
「……うん」
もう一度、素直になれたらいいけど。
「あのさ」
「うん」
首の後ろに手をやった基樹が言いづらそうに口を開く。
これは、基樹のくせだ。
動揺すると平静を装っていても、すぐに首元に手をやる。
「俺、好きなやつがいるんだ」
「……え?」
「笑った顔が、この世で一番かわいいやつ」
「……な、なによ、いきなり」
突然の告白に驚いて顔を上げると、彼の強い眼差しと視線がぶつかった。
「いずれはエマに出会ってしまうかもしれないけど、それは俺が選んだ道だろうし……受け入れるつもりだ。でも、エマが今日この日の出来事のせいでって気にするなら、それなら先に言っておこうと思って」
「うそ、誰か教えてくれるの?」
あんなに言いたがらなかったのに。
「初めて見た時からいっつも笑ってて、何が楽しいんだろうって思った時はもう目で追ってて、ひまわりだと思った」
ゆっくりと落ち着いた基の声が響く。
なんなら頬をちょっと染めて、柔らかな表情を浮かべて。
「俺も、夏休みが終わったら、自分から声をかけようと思う。だったら、その先、何が起きたって後悔はないと思うし」
わたしはこんなに大きな声をあげた彼を見たことはあっただろうか。
いつもいつも見るたびに元気になれたのだと、なぜか突然耳まで真っ赤になった基樹の暴露大会が始まることになる。
「ちょ、ちょっと待って……」
「な、なんだよ」
文句でもあんのか、って顔でわたしを直視してくる基樹。
大人ぶっでいてもその姿はあまりにも少年らしくって、真剣な表情の彼に申し訳ないけど、思わずほほが緩んだ。
「なにそれ! 初耳なんですけど!」
ひまわり、だなんて。
あのころの基樹に、そんなにも熱い感情があったなんて。
そんなことを聞いたら、嫉妬で狂ってしまうかと思っていたけど、不思議と悔しい気持
ちにならなかったのは、やっぱりまだ、この基樹にはもっとふさわしい人がいると思える自分がいるからだろうか。
勢い余って言葉を並べてしまったのかと思いきや、基の表情は変わることなく真剣で、まっすぐな瞳でこちらを見ていた。
怒っている……いや、というより、ぐっと結んだ唇が少し泣きそうに見えた。
「……そ、そういう顔だよ。多分、そっちの世界の赤石基樹が惚れてたあんたの顔は」
「え……」
「なにもかも、諦めたような顔じゃない」
だんだん小さくなる彼の声に、わたしも言葉を失った。
そのひまわりのような女の子は、同じクラスの子だったの? 想いは伝えられたの?
今のわたしだったら、あの頃とは違って、赤石基樹を前にひるんだりしない。
思ったことだってなにを臆することなく言ってやることができる。
それだけ自信がついたのだ。
だけど、わたしは何も言えなかった。
いろんな言葉や感情が文字となってぐるぐると脳内をぐるぐる回ったけど、それは言葉として口から出てくることはなかった。
笑顔が素敵な子。
基樹が好きだった女の子は、友達が数えるくらいしかいなかった当時わたしではないことはわかった。
このことがショックだったわけではない。
だけど、語られた真実にわたしはいつものように軽口がたたけなくなっていた。
「もっと早く……気付けばよかった」
忘れていたんだ。
わたしが楽しいと思えること。
「最近のわたし……基樹の前で最近全然笑ってなかった」
基樹の笑顔が見たかったくせに、彼を笑わせようとできなかった自分に。
「なにやってるんだろう……」
あんなに隣で歩くことを夢見ていたのに。
なにをやってるんだろう。
好きな人ができただなんて言われて、はいそうですかって、平気なふりをして。
「わたしは……」
何を守りたかったんだろう。
プライド?
それともそれとも周囲からの称賛の声?
ううん。そんなもの、本当はどうでもよかった。守りたいものなんて、ただ一つだったのに。
「……うん」
もう一度、素直になれたらいいけど。
「あのさ」
「うん」
首の後ろに手をやった基樹が言いづらそうに口を開く。
これは、基樹のくせだ。
動揺すると平静を装っていても、すぐに首元に手をやる。
「俺、好きなやつがいるんだ」
「……え?」
「笑った顔が、この世で一番かわいいやつ」
「……な、なによ、いきなり」
突然の告白に驚いて顔を上げると、彼の強い眼差しと視線がぶつかった。
「いずれはエマに出会ってしまうかもしれないけど、それは俺が選んだ道だろうし……受け入れるつもりだ。でも、エマが今日この日の出来事のせいでって気にするなら、それなら先に言っておこうと思って」
「うそ、誰か教えてくれるの?」
あんなに言いたがらなかったのに。
「初めて見た時からいっつも笑ってて、何が楽しいんだろうって思った時はもう目で追ってて、ひまわりだと思った」
ゆっくりと落ち着いた基の声が響く。
なんなら頬をちょっと染めて、柔らかな表情を浮かべて。
「俺も、夏休みが終わったら、自分から声をかけようと思う。だったら、その先、何が起きたって後悔はないと思うし」
わたしはこんなに大きな声をあげた彼を見たことはあっただろうか。
いつもいつも見るたびに元気になれたのだと、なぜか突然耳まで真っ赤になった基樹の暴露大会が始まることになる。
「ちょ、ちょっと待って……」
「な、なんだよ」
文句でもあんのか、って顔でわたしを直視してくる基樹。
大人ぶっでいてもその姿はあまりにも少年らしくって、真剣な表情の彼に申し訳ないけど、思わずほほが緩んだ。
「なにそれ! 初耳なんですけど!」
ひまわり、だなんて。
あのころの基樹に、そんなにも熱い感情があったなんて。
そんなことを聞いたら、嫉妬で狂ってしまうかと思っていたけど、不思議と悔しい気持
ちにならなかったのは、やっぱりまだ、この基樹にはもっとふさわしい人がいると思える自分がいるからだろうか。
勢い余って言葉を並べてしまったのかと思いきや、基の表情は変わることなく真剣で、まっすぐな瞳でこちらを見ていた。
怒っている……いや、というより、ぐっと結んだ唇が少し泣きそうに見えた。
「……そ、そういう顔だよ。多分、そっちの世界の赤石基樹が惚れてたあんたの顔は」
「え……」
「なにもかも、諦めたような顔じゃない」
だんだん小さくなる彼の声に、わたしも言葉を失った。
そのひまわりのような女の子は、同じクラスの子だったの? 想いは伝えられたの?
今のわたしだったら、あの頃とは違って、赤石基樹を前にひるんだりしない。
思ったことだってなにを臆することなく言ってやることができる。
それだけ自信がついたのだ。
だけど、わたしは何も言えなかった。
いろんな言葉や感情が文字となってぐるぐると脳内をぐるぐる回ったけど、それは言葉として口から出てくることはなかった。
笑顔が素敵な子。
基樹が好きだった女の子は、友達が数えるくらいしかいなかった当時わたしではないことはわかった。
このことがショックだったわけではない。
だけど、語られた真実にわたしはいつものように軽口がたたけなくなっていた。
「もっと早く……気付けばよかった」
忘れていたんだ。
わたしが楽しいと思えること。
「最近のわたし……基樹の前で最近全然笑ってなかった」
基樹の笑顔が見たかったくせに、彼を笑わせようとできなかった自分に。
「なにやってるんだろう……」
あんなに隣で歩くことを夢見ていたのに。
なにをやってるんだろう。
好きな人ができただなんて言われて、はいそうですかって、平気なふりをして。
「わたしは……」
何を守りたかったんだろう。
プライド?
それともそれとも周囲からの称賛の声?
ううん。そんなもの、本当はどうでもよかった。守りたいものなんて、ただ一つだったのに。



