「大丈夫か?」
「ご、ごめん、ちょっと思い出してた……」
突然思い出に浸り始めるなんて、失礼にもほどがあるだろう。
申し訳なく思うも、基樹の表情があまりにもくもっているため、怒らせてしまったのかとさえ思えた。
「思い出すなんて簡単な表情じゃなかったけど」
「え? そうなの?」
「すごい、思い詰めて見えたけど」
「ああ……そっか」
薄汚れたマスコットを手にして、当時の思い出が蘇ってしまったから突然思いに耽ってしまったのだろう。
想像以上に未練たらたらな自分が思わず笑ってしまいそうになる。
「これをもらったときのことをちょっと思い出しちゃって……」
「それ、エッグワンダーランドのキャラクターだろ? 好きなの?」
「す、好きか嫌いかで聞かれたら、好きだよ。もこもこしててかわいいよね」
「二匹いなかった?」
「ああ、ウォッチ? ウォッチは基樹が持ってるはず」
いつの頃からはつけていないから、まだ持っているかは定かではないけど。
「……そう」
わたしが手にするキャラクターを眺め、ぽつりとつぶやいた基樹の表情は読めない。
違和感があるのはよくわかる。
わたしだって普段はキャラクターものなんて持たないけど、これだけはなんとなくずっとカバンにつけている。
そろそろ外さなきゃなぁ……なぁんて思って、ふと思い出したことがある。
「ちょっと、おかしなことがあるの」
「ん?」
この基樹に言っていいのかはわからなかったけど、元の世界に帰れるように協力してもらっている身なので、少しでも違和感のあることは共有しておきたいと思った。
「あの……怖かったらすぐ止めてくれていいんだけど……」
「いいから、言って」
「……た、たまに思い出す記憶のところどころに、赤い色が見えるの」
「赤石だけに?」
「や、そういうことじゃなくって」
にっと歯を見せた基樹が、彼なりに場を和ませてくれようとしたのがわかった。
「思い出そうとするところどころに出て……」
「そっか。なにか戻る前の記憶と関係してるのかな?」
「わ、わからないんだけど……」
「まぁ、戻れるときが来たらわかるだろ、きっと。えっと……じゃあさ」
言うなり、基樹は一生懸命黒板に何かを書き始めた。
改めて黒板を前にすると今の基樹に比べて幾分背が低いことが見て取れる。
『地味な高校生活をやり直す』
さっと書き込み、 いろいろな場所の名前を書いていく。
「ひとつずつつぶしていこうぜ」
「基樹……」
「ん?」
「あの、本当に帰らなくて大丈夫なの?」
さぁ今からが勝負だと言わんばかりの基樹に、やっぱり心配になってくる。
大人びて見えるとはいえ、彼はまだ中学生なのである。
「もう九時だし、節子さんも心配す……あ、いや……」
言ってしまって基樹が目を見開いたため、はっとする。
「ご、ご家族も心配するんじゃ……」
「大丈夫。今日は節子さん、当直だから。それに、嘉人《よしと》の家に泊まることにしてある」
「……そ、そう。なかなか抜け目ないのね」
節子さんとは基樹の母親で、警察官をしている。
お父さんは単身赴任で家にいないことがほとんどだったため、よく家に招待されては娘のように可愛がってもらった。
「母さんのことまで知ってるなんて、やっぱりあんたは未来の俺と相当近い間柄なんだな」
「……節子さん、あんたがアリバイを完璧にして優等生を演じてたこと、全部知ってるからね」
「えっ、そうなの?」
「わたしが言える義理じゃないけど、節子さんに心配をかけるようなことはしないこと」
基樹がさみしい思いをしていた時期があったのも知っている。
だからこそ、わかっていて彼女はずっと大切な息子を信じ、見守り続けてきた。
もとに戻ったら、節子さんにもちゃんと挨拶をしよう。そう思った。
「ご、ごめん、ちょっと思い出してた……」
突然思い出に浸り始めるなんて、失礼にもほどがあるだろう。
申し訳なく思うも、基樹の表情があまりにもくもっているため、怒らせてしまったのかとさえ思えた。
「思い出すなんて簡単な表情じゃなかったけど」
「え? そうなの?」
「すごい、思い詰めて見えたけど」
「ああ……そっか」
薄汚れたマスコットを手にして、当時の思い出が蘇ってしまったから突然思いに耽ってしまったのだろう。
想像以上に未練たらたらな自分が思わず笑ってしまいそうになる。
「これをもらったときのことをちょっと思い出しちゃって……」
「それ、エッグワンダーランドのキャラクターだろ? 好きなの?」
「す、好きか嫌いかで聞かれたら、好きだよ。もこもこしててかわいいよね」
「二匹いなかった?」
「ああ、ウォッチ? ウォッチは基樹が持ってるはず」
いつの頃からはつけていないから、まだ持っているかは定かではないけど。
「……そう」
わたしが手にするキャラクターを眺め、ぽつりとつぶやいた基樹の表情は読めない。
違和感があるのはよくわかる。
わたしだって普段はキャラクターものなんて持たないけど、これだけはなんとなくずっとカバンにつけている。
そろそろ外さなきゃなぁ……なぁんて思って、ふと思い出したことがある。
「ちょっと、おかしなことがあるの」
「ん?」
この基樹に言っていいのかはわからなかったけど、元の世界に帰れるように協力してもらっている身なので、少しでも違和感のあることは共有しておきたいと思った。
「あの……怖かったらすぐ止めてくれていいんだけど……」
「いいから、言って」
「……た、たまに思い出す記憶のところどころに、赤い色が見えるの」
「赤石だけに?」
「や、そういうことじゃなくって」
にっと歯を見せた基樹が、彼なりに場を和ませてくれようとしたのがわかった。
「思い出そうとするところどころに出て……」
「そっか。なにか戻る前の記憶と関係してるのかな?」
「わ、わからないんだけど……」
「まぁ、戻れるときが来たらわかるだろ、きっと。えっと……じゃあさ」
言うなり、基樹は一生懸命黒板に何かを書き始めた。
改めて黒板を前にすると今の基樹に比べて幾分背が低いことが見て取れる。
『地味な高校生活をやり直す』
さっと書き込み、 いろいろな場所の名前を書いていく。
「ひとつずつつぶしていこうぜ」
「基樹……」
「ん?」
「あの、本当に帰らなくて大丈夫なの?」
さぁ今からが勝負だと言わんばかりの基樹に、やっぱり心配になってくる。
大人びて見えるとはいえ、彼はまだ中学生なのである。
「もう九時だし、節子さんも心配す……あ、いや……」
言ってしまって基樹が目を見開いたため、はっとする。
「ご、ご家族も心配するんじゃ……」
「大丈夫。今日は節子さん、当直だから。それに、嘉人《よしと》の家に泊まることにしてある」
「……そ、そう。なかなか抜け目ないのね」
節子さんとは基樹の母親で、警察官をしている。
お父さんは単身赴任で家にいないことがほとんどだったため、よく家に招待されては娘のように可愛がってもらった。
「母さんのことまで知ってるなんて、やっぱりあんたは未来の俺と相当近い間柄なんだな」
「……節子さん、あんたがアリバイを完璧にして優等生を演じてたこと、全部知ってるからね」
「えっ、そうなの?」
「わたしが言える義理じゃないけど、節子さんに心配をかけるようなことはしないこと」
基樹がさみしい思いをしていた時期があったのも知っている。
だからこそ、わかっていて彼女はずっと大切な息子を信じ、見守り続けてきた。
もとに戻ったら、節子さんにもちゃんと挨拶をしよう。そう思った。



