「あ、ありえねぇ……」

 同じようで何かが違う。

 しゅっとした切れ長で黒目がちな瞳がどこか落ち着いた様子を醸し出し、加えて背が高い分、実年齢より少し大人びて見えるものの、それでも彼は年相応の動作で大げさに自身の頭を抱え、また同じ言葉を繰り返した。

「む、無理……絶対ない……」

 これで何度目だろうか。

 見ているだけでも気が滅入りそうになる。

 先ほどから彼は蒼白な表情で同じ言葉を繰り返している。まるで呪文のように。

 はたから見たら、高校生のわたしが中学生の彼をいじめているように見えるかもしれない。だけど、そんなこと構わない。

「俺、あんたなんて知らな……」

「あんたは知らなくてもわたしは知ってんのよ」

 わたしだって自分が何を言っているのかだんだんわからなくなってくる。

 それでも何度だって言ってやる。

「三年間、わたしの彼氏だったんだから」

 この暑さのせいかもしれない。

 わたしは結構おかしくなっていた。

 燃え盛る炎の中に置いてきぼりにされたように頭の中は熱に犯されていて、いまにも爆発してしまいそうだった。

 見るからに困惑している中学生にいきなり怒鳴りつけるなんていつものわたしじゃありえない行為だったと思う。

 それでも我慢できなかった。

(だ、だってこの人は……)

 張り裂けんばかりの大声で、全身全霊にたまった黒い影を放出するにはこれしかなかった。

 でないと今にも夏の魔物に心を奪われてしまいそうだった。