すっかり日も落ち、夏場とはいえ、だんだん心細くなるような空の色を見つめ、ぐったり力なく座り込んだわたしは深い深いため息をついた。

 頑張ろうと思えた気持ちが、遠い昔のことのように感じられる。顔を伏せたらもう上を向けそうになかった。

「何話してたの?」

 頭上から聞こえる声に、頭をあげる気力さえなかった。

「……誰のこと?」

 あまりに惨敗の続いた時間が長すぎたため、徐々に溜まっていった疲労とともにいったいいつのことなのか正確に思い出して考える余裕なんてどこにもなくなっていた。

 あれからも何度か高崎さんたちと同じように怪しんだ女子生徒たちに話しかけられたり、ひそひそ後ろから指をさされたりした。

 先生や大人の人に怪しまれて声をかけられなかったのが幸いだったけど、当時の懐かしい仲間を見つけても彼らはわたしのことを警戒して遠目に見ていたくらいだった。

 誰かひとりくらいはわたしだと気付いてくれたり、当時のわたしの親族のひとりと思ってくれないだろうか……なんて、徐々に弱気になっていく胸のうちを肌で感じたものだけど、残念ながら誰一人としてわたしに気付いてくれる人はいなかった。

「やっぱり戻れなかったんだ?」

 あーあ、というように隣に腰を下ろす彼にわたしは唖然とする。

「あんたは逆に、わざわざ戻ってきてくれたんだ?」

 そのまま逃げ帰ってもよかったってのに。

 仕方ないだろ、とだけ呟いて基樹は面白くなさそうに顔をそむける。

 悪いかよ、と言う声が小さく聞こえた。

「な、なんだよ、その顔……」

「……え?」

 彼が言うとおり、自分でもわかるくらい相当間抜けな表情をしていたのだろう。まさに言葉通り、唖然とした。

 そんな場合じゃないのはわかっているものの、なんだかいろいろと信じられなかった。

 中学生の基樹の一つ一つの動作があまりに新鮮でたまらないというか、今ではほとんど見ることのない彼の姿に目が離せない。

「なんかよくわかんねぇけど、未来の俺のせいであんたは今、こんなことになっちゃってるんだろ? だったら、帰れねぇし」

 こういう面倒なことは好きでないと思っていた。でも、彼が困った人をほうっておけない性格だということも知っていた。

 罪悪感なのか、責任感からなのだろうか、意外な彼の一面に失礼ながら驚いた。

「いまだに信じらんねぇけど、俺もなにか考えてやるから」

「も、基樹……」

「ちょ、なんだよ。慣れ慣れしい呼び方すんなよっ!」

 恥ずかしそうに手の甲で口元を押さえた彼に目を疑いつつ、続ける。

「えー、なに、照れてんの? かわいいとこあんのね。ずっとそう呼んでたのよ」

 一応彼女だったんだから。

 それに、高崎さんたちだって普通にそう呼んでいた。今さら照れることなのか……なんて思ったものだったけど、珍しく言葉に詰まって固まっている彼に思わずぷっと吹き出してしまった。

「……あはははははっ!」

「ちょっ、おいっ!」

 ダメだとは思ったけど、笑いが止まらなかった。本当はこのままきっとここで夜を迎えるんだ……とそんな風に思っていた。

 だからとても不安で、今にも泣いてしまいそうだったけど、なんだかとてもほっとした気持ちになったのは本心だった。