『わぁ、きれい……』
思わず声がもれた。
入学式が終わって、小学校からの同級生の母親と親同士の会話が盛り上がってしまった母を待つため、一人で外へ出たわたしは、初めてこの花壇を見つけた。
その時は、美しいガーベラとカスミソウが春の訪れを喜ぶかのように並んで咲いていた。優しい色に心が温かくなった。
まるで春の訪れを喜ぶ妖精たちのようだと小さいころに読んだ絵本を思い出してしまったほどだ。
校門のところに咲く満開の桜並木もとてもとてもきれいだったけど、同じくらいこの花壇も一目で好きになった。
小さく深呼吸をして座りこむ。
誰も見ているはずはないのにコソッと辺りを見渡して、ほっとする。
入学式からずっと高鳴る胸の高まりをなかなか抑えることができない。
絶対にあの人せいだ……と燃えるように熱い頬に手を当て、ひとりで照れて、そして耐えきれなくなってしまいにはわっと顔を両手で覆った。
はたから見たらずいぶん怪しい光景だったと思うけど、そんなこと考えていられなかった。
突然、壇上の上に現れた同級生の男の子に目を奪われたあのとき、あの瞬間からわたしの中の世界の色が変わった気がしてならなかった。
うまくは言えないけど、その時から胸の奥で高鳴る音を抑えることができなくなった。息が荒くて苦しいほどだ。
おかげで壇上で話したその人が何を話したのか聞こえなかったし、名前さえ聞き取れなかった。
ただただ時を止められたのだ。
恋愛に興味がなかったわけではないけど、お世辞にも可愛いとか愛嬌があって友だちが多いというタイプでもなく、わたしが恋愛をするという機会があるならば奇跡だと思っていた。
一方的に恋をすることはあるだろうけど、きっと片想いに終わるだろうし、それならそれで仕方はないからほろ苦い思い出だって当たって砕けたときに後悔のないようにできたらいいなと少女漫画を読んでは想像のできない未来の自分像を想像しては勝手な妄想を繰り広げた。
まさか自分が、あんなにも視線を集めて笑顔を振りまいて平然と歩く人間に心を奪われることになるとは思っても見なかった。
きっと、これからは想像の中にあの人が出てくるのだろう。
桜の花を思い出そうとして、またあの光景が脳裏によみがえり、心のなかで『きゃっ!』と小さく悲鳴を上げる。
わたしにはキャパオーバーな心境だった。
それでも、これから先の中学生活で何か今までにはない新しいことが起こるような気がして、そんなふわふわした気持ちと目に見えない大きな希望が胸いっぱいに広がり、何だか嬉しくなった。
よく考えれば、あれはわたしが初めて恋をした日のことだった。
わたしの淡い片想いのはじまりは、桜色のあの日からはじまったのだ。
思わず声がもれた。
入学式が終わって、小学校からの同級生の母親と親同士の会話が盛り上がってしまった母を待つため、一人で外へ出たわたしは、初めてこの花壇を見つけた。
その時は、美しいガーベラとカスミソウが春の訪れを喜ぶかのように並んで咲いていた。優しい色に心が温かくなった。
まるで春の訪れを喜ぶ妖精たちのようだと小さいころに読んだ絵本を思い出してしまったほどだ。
校門のところに咲く満開の桜並木もとてもとてもきれいだったけど、同じくらいこの花壇も一目で好きになった。
小さく深呼吸をして座りこむ。
誰も見ているはずはないのにコソッと辺りを見渡して、ほっとする。
入学式からずっと高鳴る胸の高まりをなかなか抑えることができない。
絶対にあの人せいだ……と燃えるように熱い頬に手を当て、ひとりで照れて、そして耐えきれなくなってしまいにはわっと顔を両手で覆った。
はたから見たらずいぶん怪しい光景だったと思うけど、そんなこと考えていられなかった。
突然、壇上の上に現れた同級生の男の子に目を奪われたあのとき、あの瞬間からわたしの中の世界の色が変わった気がしてならなかった。
うまくは言えないけど、その時から胸の奥で高鳴る音を抑えることができなくなった。息が荒くて苦しいほどだ。
おかげで壇上で話したその人が何を話したのか聞こえなかったし、名前さえ聞き取れなかった。
ただただ時を止められたのだ。
恋愛に興味がなかったわけではないけど、お世辞にも可愛いとか愛嬌があって友だちが多いというタイプでもなく、わたしが恋愛をするという機会があるならば奇跡だと思っていた。
一方的に恋をすることはあるだろうけど、きっと片想いに終わるだろうし、それならそれで仕方はないからほろ苦い思い出だって当たって砕けたときに後悔のないようにできたらいいなと少女漫画を読んでは想像のできない未来の自分像を想像しては勝手な妄想を繰り広げた。
まさか自分が、あんなにも視線を集めて笑顔を振りまいて平然と歩く人間に心を奪われることになるとは思っても見なかった。
きっと、これからは想像の中にあの人が出てくるのだろう。
桜の花を思い出そうとして、またあの光景が脳裏によみがえり、心のなかで『きゃっ!』と小さく悲鳴を上げる。
わたしにはキャパオーバーな心境だった。
それでも、これから先の中学生活で何か今までにはない新しいことが起こるような気がして、そんなふわふわした気持ちと目に見えない大きな希望が胸いっぱいに広がり、何だか嬉しくなった。
よく考えれば、あれはわたしが初めて恋をした日のことだった。
わたしの淡い片想いのはじまりは、桜色のあの日からはじまったのだ。



