基樹と付き合うようになってからのわたしは、毎日が自分に精一杯で、あまり気にすることはなくなってしまっていたけど、覚えている限りでは、この花壇は年中美しく色とりどりのお花が咲き誇って学校を色鮮やかに見せてくれていた。
入学した時にあまりの美しさに言葉を失ったほどで、それからも毎日この花壇のそばを通るのが楽しみだった。
いつもきれいだと思っていた。
ここのお花を見ると元気になれたし、また明日からも頑張ろうと思えたものだ。
これはわたしの中学校時代の記憶。
そういえば、学校が立て替えられているという今でも、この花壇は健在なのだろうか?もしなくなっていたら……少し悲しい。
「あのさ」
沈黙が続き、自分でも驚いたけど、先に口を開きかけたのはわたしだった。
橋田さんは変わらず今すぐにでもこの場を立ち去りたい様子だったけど、どちらかというと恐怖で動けないといった様子だ。
だから、柄にもなく、何か言うべきかとふとそんな気がしたのだ。
中学時代のわたしといえば、特にこれといった特技もなかったし、目立つ要素はひとつもなかった。
基樹と付き合うことになるまでは誰からも注目されることもなかったし、それどころかわたしの存在さえ意識する人はほとんどいないに等しいだろうと改めて思う。
でも、この人は……橋田さんなら、なんとなく今のわたしを見て違和感を感じてくれるんじゃないかなって思ったけど、そうでもないようだった。というより、今のわたしの姿は彼女にとって、猛獣のような姿で写っているのかもしれない。それくらい怯えているため、逆に申し訳なくなった。
「いや、いいや。ごめん」
何が言いたいのか自分でもよくわからなかったけど、なんとなく、気付いてほしいような気がした。勝手な話である。
「い、いえ、ひ、拾ってくださって、あ、あああありがとうございました」
そんなわたしとは裏腹に、早くこの話を切り上げてこの場から立ち去りたかったのだろう。今にも消えてしまいそうな声で無理やりお礼の言葉をぶちこんで、当の橋田さんは横目で後方を気にし始めた。
そして私が返答するよりも前に小さく一礼すると、すぐさまこちらに背を向け、足早に去って行こうとした。
力いっぱい握られた如雨露を胸に抱え込み、一刻も早くここから存在を消したいのか自信なく丸まった背中とくせっ毛の髪の毛をぐしゃっと一つにまとめた、そんな後姿が最後に目に入った。
わたしの記憶の中のままのその姿だった。
下ばかり見ている女の子。
別に引き留めてまで話すこともない。
わたしだってもともとわざわざ自分から話題を作って話すタイプでもないし。
だからもう彼女を呼び止めようとは思わなかったけど、少し懐かしい気持ちになった。
足元にはマリーゴールドが美しく咲き誇っていた。艶やかなオレンジ色の光がまぶしい。
彼女が大切にしていた花壇を眺め、思わず頬が緩む。絶望的な気持ちだったけど、心なしかなんだかまた頑張れそうな気がした。
この気持ちは、あの頃のものと少し似ている。
入学した時にあまりの美しさに言葉を失ったほどで、それからも毎日この花壇のそばを通るのが楽しみだった。
いつもきれいだと思っていた。
ここのお花を見ると元気になれたし、また明日からも頑張ろうと思えたものだ。
これはわたしの中学校時代の記憶。
そういえば、学校が立て替えられているという今でも、この花壇は健在なのだろうか?もしなくなっていたら……少し悲しい。
「あのさ」
沈黙が続き、自分でも驚いたけど、先に口を開きかけたのはわたしだった。
橋田さんは変わらず今すぐにでもこの場を立ち去りたい様子だったけど、どちらかというと恐怖で動けないといった様子だ。
だから、柄にもなく、何か言うべきかとふとそんな気がしたのだ。
中学時代のわたしといえば、特にこれといった特技もなかったし、目立つ要素はひとつもなかった。
基樹と付き合うことになるまでは誰からも注目されることもなかったし、それどころかわたしの存在さえ意識する人はほとんどいないに等しいだろうと改めて思う。
でも、この人は……橋田さんなら、なんとなく今のわたしを見て違和感を感じてくれるんじゃないかなって思ったけど、そうでもないようだった。というより、今のわたしの姿は彼女にとって、猛獣のような姿で写っているのかもしれない。それくらい怯えているため、逆に申し訳なくなった。
「いや、いいや。ごめん」
何が言いたいのか自分でもよくわからなかったけど、なんとなく、気付いてほしいような気がした。勝手な話である。
「い、いえ、ひ、拾ってくださって、あ、あああありがとうございました」
そんなわたしとは裏腹に、早くこの話を切り上げてこの場から立ち去りたかったのだろう。今にも消えてしまいそうな声で無理やりお礼の言葉をぶちこんで、当の橋田さんは横目で後方を気にし始めた。
そして私が返答するよりも前に小さく一礼すると、すぐさまこちらに背を向け、足早に去って行こうとした。
力いっぱい握られた如雨露を胸に抱え込み、一刻も早くここから存在を消したいのか自信なく丸まった背中とくせっ毛の髪の毛をぐしゃっと一つにまとめた、そんな後姿が最後に目に入った。
わたしの記憶の中のままのその姿だった。
下ばかり見ている女の子。
別に引き留めてまで話すこともない。
わたしだってもともとわざわざ自分から話題を作って話すタイプでもないし。
だからもう彼女を呼び止めようとは思わなかったけど、少し懐かしい気持ちになった。
足元にはマリーゴールドが美しく咲き誇っていた。艶やかなオレンジ色の光がまぶしい。
彼女が大切にしていた花壇を眺め、思わず頬が緩む。絶望的な気持ちだったけど、心なしかなんだかまた頑張れそうな気がした。
この気持ちは、あの頃のものと少し似ている。



