振り返ったはいいけど、がくがく震えて動けなくなった橋田さんになんだか申し訳なくなった。

 彼女に会うのも久しぶりだ。

 彼女はわたしがぶらんと見せたお守りが目に入った途端、はっとしたように瞳を大きく見開いた。わたしは知っている。

「大事なものなんでしょ?」

 彼女がいつもこのお守りを大切にしていたことをわたしは知っていた。

「あなたの大切なお守り」

 橋田さんは親友の福岡さんとお揃いのお守りを買ったのだと嬉しそうにしていたのが記憶にあるからだ。

 少しずつ、あのころの記憶が蘇ってくる。

「あ……りがとう……ございます」

 強引にひったくるようにしてわたしの手から奪い取ったそれをしっかり握りしめた彼女の方から、消えそうな声が聞こえた。

 いつも彼女はこのお守りを福岡さんのようにカバンやどこかにつけるのではなく、大切そうに握りしめていた覚えがある。

 ピンク色のかわいいお守りだ。右下の方に黄色いミモザのお花の刺繍が施されている。

 当時、このお守りはわたしたちの間でとても人気だったのだ。

(北瀬川神社か)

 確かに、わたしも昔は何かあるごとにあれやこれやといつもお願いしに行った。

 テストのこととか、体育祭のこととか、もちろん、恋のこととか。

 高校生になってからはたいていのお願いごとは自分で何とかできるようになったため行くことがなくなったけど、中学校の時はよく助けてもらったことを思い出す。

 基樹にふられて無意識にまず向かおうとしたのもこの神社だったし、わたしも今でも変わらずお世話になっているのだとしみじみ思ったらあんなに神頼みはしないと強気だったのがあまりにも滑稽な姿に思える。

 思わず笑ってしまったことに驚いたのか、橋田さんは泣きそうな顔で固まっていた。

「あ、ごめん。わたしも昔は同じようなお守りを大切に持ってたなぁって勝手に思い出してただけだから」

「……」

 そうですか、の一言くらい適当に言えばいいのに、などと思ったけど、彼女は唇をへの字にしたまま、無言を貫く。

 わたしの前で何も言えなくなってしまった橋田さんはどう見ても限界のようだ。

 思わずまた口を開きかけてやめる。

 たしか彼女はこんな子だったなぁと今さらながら思い出し、これ以上困らせるのはさすがに可哀想に思えてきた。

 暑い夏に、しかも夏休みの真っ最中に、部活もないのにわざわざ制服を着てお花に水をあげにきたのだろうか。

 額に光る汗が見える。

 陰ながら行動しても報われない努力。

 目立つ子たちは何もしなくても人の前に立ち、キラキラしているのに不公平なものだとさえ思えてしまう。

 だけど、橋田さんは真っすぐな人だ。

 それに、わたしはこの光景を知っている。