彼女たちはなおもまだ何かわたしに言いたげだったけど、こちらが完全に答える気がないことを察してくれたのか、いつの間にかしぶしぶ引き下がってくれた。
そんなときグランドからは、わぁーっと再び歓声があがる。
どよめきの先で、最近ではめったに見ることのないほど無邪気に笑う基樹の姿が目に入り、やっぱりどうしても我慢ができなくなり、口元が緩んでしまっていた。
わたしがここにいると、またさっきのように彼を見ている女の子たちに不審に思われてしまうだろうとは思ったけど、どうやったら元の世界に戻れるかもわからない今、せっかくだからもう少しこのころの彼の姿を目に焼き付けておこうと思った。
いつも、目立つ子たちばかりが基樹の話をしていた。
まったくもって生きる世界が違いすぎるため混ざれるなんて思っていなかったけど、いいなぁ……とは思ったことがある。
いや、本当に混ぜられてしまったら大パニックを起こしてしまいそうだけど、それくらいわたしも、そんな彼女たちの様子も含め、いつもその後ろから見ていた。
だから、だからこそ、気付かないでいた。
いつもいつも前を見ていて、後ろを振り返ることなんてなかった。
少し離れた校舎のすぐ手前の花壇にぽつんと立ちつくすようにして彼女たちと同じ方向を見ている女の子。
お花にお水をあげていたのだろうか、ぼさぼさの髪の毛を一つに結いあげ、だぼっとした大きめの制服に身を包む彼女は、手には如雨露を持ち、明るい声援が聞こえる方をただじっと見つめていた。
もっと近くで見ればいいのに。
そういいたくなる。その場所から見えるの?と。
いや、わかる。
彼女がどうしてその場から前に出られないのか、わたしだってよく知っている。行かないんじゃない。行けないのだ。
同じように基樹に心から声援を送っていたわたしだって気が付かなった。
キラキラした子たちはいつも目に入ったのに、同じくらい強い眼差しで基を追う彼女の瞳に気付かなかったなんて。
わたしと目が合い、彼女はびくっとしてあわててその場を去ろうとする……も、その拍子に肩にさげたバックから何かが落ちたのが目が入った。
「あ、ちょっと、落としたわよ」
普段だったら気にもしないところだけど、今日はなぜか自分でも驚くほど寛大で、普段なら絶対に出さない大きな声をあげていた。
なんとなく、その形からそれが何かわかったからだ。
北瀬川神社のお守りだ。
彼女は歩く速度を緩めることはない。
そんなに怖がらせただろうか。
「待ってっ!」
本当は、こういう人間が嫌いだ。
わたしは、自信のない姿を見るのが大嫌いだ。
努力をすればすべてとは言わないけど結果が返ってくる。それなのに、努力もしないうちからただ逃げ出すような人間は一番嫌いだ。
目の前で逃げる彼女。
そんな人間、普段なら絶対放っておく……だけど、
「橋田笑子!」
わたしは知ってる。
橋田笑子。
名前と違って笑うどころかいっつもむすっとして人と接することを嫌った万年花壇少女と呼ばれた園芸部員。
なんで自分の名を?というように振り返った彼女が泣きそうな目でこっちを見ている。
睨んでいるのではない。怖がっているのだろうな、と今のわたしならわかる。
「ほら、これ、落としたでしょ?」
悲しきかなこういうタイプは、わたしみたいな人間に怯えているのは知っている。
そして、目に見えてその様子がひしひしと伝わってきたのだった。
そんなときグランドからは、わぁーっと再び歓声があがる。
どよめきの先で、最近ではめったに見ることのないほど無邪気に笑う基樹の姿が目に入り、やっぱりどうしても我慢ができなくなり、口元が緩んでしまっていた。
わたしがここにいると、またさっきのように彼を見ている女の子たちに不審に思われてしまうだろうとは思ったけど、どうやったら元の世界に戻れるかもわからない今、せっかくだからもう少しこのころの彼の姿を目に焼き付けておこうと思った。
いつも、目立つ子たちばかりが基樹の話をしていた。
まったくもって生きる世界が違いすぎるため混ざれるなんて思っていなかったけど、いいなぁ……とは思ったことがある。
いや、本当に混ぜられてしまったら大パニックを起こしてしまいそうだけど、それくらいわたしも、そんな彼女たちの様子も含め、いつもその後ろから見ていた。
だから、だからこそ、気付かないでいた。
いつもいつも前を見ていて、後ろを振り返ることなんてなかった。
少し離れた校舎のすぐ手前の花壇にぽつんと立ちつくすようにして彼女たちと同じ方向を見ている女の子。
お花にお水をあげていたのだろうか、ぼさぼさの髪の毛を一つに結いあげ、だぼっとした大きめの制服に身を包む彼女は、手には如雨露を持ち、明るい声援が聞こえる方をただじっと見つめていた。
もっと近くで見ればいいのに。
そういいたくなる。その場所から見えるの?と。
いや、わかる。
彼女がどうしてその場から前に出られないのか、わたしだってよく知っている。行かないんじゃない。行けないのだ。
同じように基樹に心から声援を送っていたわたしだって気が付かなった。
キラキラした子たちはいつも目に入ったのに、同じくらい強い眼差しで基を追う彼女の瞳に気付かなかったなんて。
わたしと目が合い、彼女はびくっとしてあわててその場を去ろうとする……も、その拍子に肩にさげたバックから何かが落ちたのが目が入った。
「あ、ちょっと、落としたわよ」
普段だったら気にもしないところだけど、今日はなぜか自分でも驚くほど寛大で、普段なら絶対に出さない大きな声をあげていた。
なんとなく、その形からそれが何かわかったからだ。
北瀬川神社のお守りだ。
彼女は歩く速度を緩めることはない。
そんなに怖がらせただろうか。
「待ってっ!」
本当は、こういう人間が嫌いだ。
わたしは、自信のない姿を見るのが大嫌いだ。
努力をすればすべてとは言わないけど結果が返ってくる。それなのに、努力もしないうちからただ逃げ出すような人間は一番嫌いだ。
目の前で逃げる彼女。
そんな人間、普段なら絶対放っておく……だけど、
「橋田笑子!」
わたしは知ってる。
橋田笑子。
名前と違って笑うどころかいっつもむすっとして人と接することを嫌った万年花壇少女と呼ばれた園芸部員。
なんで自分の名を?というように振り返った彼女が泣きそうな目でこっちを見ている。
睨んでいるのではない。怖がっているのだろうな、と今のわたしならわかる。
「ほら、これ、落としたでしょ?」
悲しきかなこういうタイプは、わたしみたいな人間に怯えているのは知っている。
そして、目に見えてその様子がひしひしと伝わってきたのだった。



