自分でも驚いたけど、あれから数年経っているし、今では別々の高校に行ってしまったからまったく顔を合わせることはないのに意外と覚えているものだ。というか、当然か。彼女たちは当時からとても目立っていたのだから。

 クラスのヒエラルキーがあるとするならば、彼女たちは常にその中のトップに君臨していた人たちだ。

 いつもおしゃれで話題の最先端で、取り巻きのような女の子たちをわきに置いて、キラキラ輝く空気の中にいた。

 一方的だったけどわたしはよく彼女たちを別世界の人間だと思いながら見ていた。

 声がかけてほしいとか仲良くしてほしいとか、そんなことは思ったことはなく、近くに来られてしまうと彼女たちに悪気はなくても萎縮してしまうため、叶うなら彼女たちの目に映らないよう願っていたものだ。

 もちろん、彼女たちにもわたしの存在などなかったに等しい。

 そんな彼女たちがわざわざわたしに声をかけてきたことが意外だった。

「ひ、久しぶり……」

「え?」

「あっ……」

 とっさに言ってしまって少し焦る。

 今のわたしからしたら久しぶりだけど、この世界の彼女たちからしたら久しぶりではないのだ。

 突然変な高校生に親しげにされて困惑したのだろう。

 何を言っているのと言わんばかりにこちらを見つめるふたりと相変わらず後ろに控える取り巻きの女の子たち。

 いったい、わたしに何を……

「あ、あの……さっき、基樹と話していた方ですよね?」

「え?」

 感覚はあのころに戻ったようで何を言われるのかとひやっとしたものの、予想とは裏腹な言葉が返ってきて耳を疑う。

「基樹の……その、彼女さんですか……?」

 そっちこそ呼び捨てにして、彼のなんなのだと言い返したくなったが、そういえば当時の彼もこのヒエラルキートップ軍団の一員のようなものだった。

「あの……」

 いつもは強気な態度だった彼女たちの弱々しい姿に、ああ、と思い出す。

 わたしは今、あのころのわたしでさなく、この時代より三年も時間が経った高校生だったということに。

 どうやら彼女たちは、当時中学生だったわたしに対して話しかけてきたのではないことがわかった。

 なかなか複雑な心境だけれども、わたしの高校デビューは結構うまいこと成功したようだ。

「あ、あの……も、基樹とは……」

「彼女じゃないわ」

(……今はね)

 元彼だったと言ってやるべきだろうか。

 大人ぶってちょっと意味深にいってやろうか……なぁんて意地悪なことを考えてやめた。

「なんでもない。通りかかってただちょっと気になったから話しかけただけ」

 本当に、ただただむなしくなった。

 わたしはいったい、何がしたいのだろう。

 どうしてここにいるのだろう。

 改めて思う。

 やり残したことがあるのか、彼にやっぱりもっとしっかり仕返すべきなのだろうか。

 でも、何をどうしたらいいかわからない。

 ましてや、当時はまったく相手にさえされなかった彼女たちに見栄を張るためだけにここにいるのだったらそれはあまりにもくだらないし、どこまでも過去に未練たらたらなのだろうかと自分自身があまりにも惨めでしかない。

 考えたってわからない。

 ここにいればいるだけ、自分だけ前に進めないような気がしてどんどん情けなくなってくるばかりなのだ。