有優(あゆ)、調子はどう?」


突然ぬっと顔を出してきた茜ちゃんに驚いて、思わず持っていたペンを床に落とす。


「わ、いいじゃんいいじゃん!この物語のヒロインとヒーロー像にぴったり!さては、有優も隠れファンだなー?」

「あ、あはは、そういうわけじゃ、ないけど…」


茜ちゃんが褒めてくれたラフ画は、まだヒロインとヒーローのなんとなくの姿しか描けていない。

それもそのはず、私がこういう感じの男女を思い浮かべて物語を綴っているわけだから、このくらいならサクサクと描くことができるのだ。

だけど、死んでも私がその小説を書いてるから、なんて言えない。

いくら茜ちゃんにでも、この秘密だけは絶対に教えることができない。


「ねえ、もし大変だったら全然いいんだけどさ、脚本考える役、有優にも手伝ってもらっちゃダメかな?」

「…え?」

「脚本やりたがってくれる人が誰もいなくて、とりあえず今は更新されてるところまでの劇の練習してるんだけどさ、本番までにその続きをうちらで作らなきゃいけないわけじゃん?私が考えてみてるんだけど、なかなか納得のいくラストが思い浮かばなくてさ…。有優って昔から本読むこと好きだったし、何かいいラスト思いつかないかなって思って!」


茜ちゃんはさっきの女子たちとは違い、私になら何を押し付けてもいいという考え方よりも、私にだからこそ頼みたいといった素直な気持ちが溢れ出ていて、私もその気持ちに応えたいと思ってしまう。