青島くんの言葉に私は頷く。
「うん。……あ、もしかして、それよりも前に何かあった? 校内で肩がぶつかったとか?」
「いや。高校生になってからは、あの時が初めて。まぁ、俺は、入学式の日に白野の姿に気がついていたけど……」
「入学式の時に気づいてた? 私たち、それより前に会ったことがあった?」
入学式より前ということは、私が下界へ来てから一週間程しか経っていない。あの頃は、右も左も分からなくて、下界の生活に慣れるのに精一杯だった。興味本位で家の外を彷徨いてはいたけれど、その時にでも青島くんに出会っていたのだろうか。
私があれこれと考えを巡らせていると、青島くんの口から答えが漏れた。
「俺たち、子どもの頃に会ってるんだ」
「えっ? 子どもの頃?」
「4、5才の頃だと思う。その辺は、俺も良く覚えていないんだけど。俺、じいちゃんに連れられて何処かのホテルに行ったんだ。たぶん、園芸の仕事について行ったんだと思う」
「大樹さんの?」
「うん。めちゃくちゃ広い庭みたいなところでさ、池とかもあって、子どもの遊び場にもってこいって感じだった。で、そこを走り回ってた俺は、一人でじっと空を見上げている女の子を見つけたんだ。今になって考えると、客としてホテルに泊まっていたのかな」
「……女の子?」
私の言葉に青島くんはコクリと頷くと、射抜くように真っ直ぐ私の顔を見つめる。あまりにじっと見られ気恥ずかしくなった私は、思わず声が上ずった。
「え? まさかその女の子って、私?」
「あぁ。当時の俺は、まだガキだったから、お前がホテルの客かどうかなんて考えには至らなくて、ただ良い遊び相手が見つかったくらいに思ったんだと思う」
「私と青島くんが一緒に遊んだの?」
「うん。じいちゃんの仕事が終わるまでの、たぶん数時間だと思うんだけど、二人で庭園の中を走り回った。池を覗いたり、芝生で転がったり……」
「私と青島くんが?」
庭園の住人である私と青島くんの間に、そんな思い出があるはずがないと思いながらも、彼が話す情景がすんなりと頭の中に浮かびあがり、あたかも自分がそこにいたようにも感じる。
「俺、ガキだったからさ、その女の子の『つばさ』って名前しか覚えてなくて。顔も全然思い出せないし、どこの誰だかも分からないけど、ただその時の記憶だけが強く心に残ってたんだ」
「そ、それじゃあ……人違いなんじゃ……」
青島くんの話を聞いているうちに、胸の鼓動が激しくなっていた。
「うん。……あ、もしかして、それよりも前に何かあった? 校内で肩がぶつかったとか?」
「いや。高校生になってからは、あの時が初めて。まぁ、俺は、入学式の日に白野の姿に気がついていたけど……」
「入学式の時に気づいてた? 私たち、それより前に会ったことがあった?」
入学式より前ということは、私が下界へ来てから一週間程しか経っていない。あの頃は、右も左も分からなくて、下界の生活に慣れるのに精一杯だった。興味本位で家の外を彷徨いてはいたけれど、その時にでも青島くんに出会っていたのだろうか。
私があれこれと考えを巡らせていると、青島くんの口から答えが漏れた。
「俺たち、子どもの頃に会ってるんだ」
「えっ? 子どもの頃?」
「4、5才の頃だと思う。その辺は、俺も良く覚えていないんだけど。俺、じいちゃんに連れられて何処かのホテルに行ったんだ。たぶん、園芸の仕事について行ったんだと思う」
「大樹さんの?」
「うん。めちゃくちゃ広い庭みたいなところでさ、池とかもあって、子どもの遊び場にもってこいって感じだった。で、そこを走り回ってた俺は、一人でじっと空を見上げている女の子を見つけたんだ。今になって考えると、客としてホテルに泊まっていたのかな」
「……女の子?」
私の言葉に青島くんはコクリと頷くと、射抜くように真っ直ぐ私の顔を見つめる。あまりにじっと見られ気恥ずかしくなった私は、思わず声が上ずった。
「え? まさかその女の子って、私?」
「あぁ。当時の俺は、まだガキだったから、お前がホテルの客かどうかなんて考えには至らなくて、ただ良い遊び相手が見つかったくらいに思ったんだと思う」
「私と青島くんが一緒に遊んだの?」
「うん。じいちゃんの仕事が終わるまでの、たぶん数時間だと思うんだけど、二人で庭園の中を走り回った。池を覗いたり、芝生で転がったり……」
「私と青島くんが?」
庭園の住人である私と青島くんの間に、そんな思い出があるはずがないと思いながらも、彼が話す情景がすんなりと頭の中に浮かびあがり、あたかも自分がそこにいたようにも感じる。
「俺、ガキだったからさ、その女の子の『つばさ』って名前しか覚えてなくて。顔も全然思い出せないし、どこの誰だかも分からないけど、ただその時の記憶だけが強く心に残ってたんだ」
「そ、それじゃあ……人違いなんじゃ……」
青島くんの話を聞いているうちに、胸の鼓動が激しくなっていた。



