言葉を濁した女の子の顔には、先ほどの笑顔を隠してしまうほどの影が落ちていた。私は慌てて言葉を探す。

「そ、そっかぁ。でも不思議ねぇ。私たち以外にもあなたのことが分かるなんて。どうしてかしら? フリューゲル、何故だか分かる?」

 フリューゲルは、少し考える素振りを見せながら首を傾げた。

「詳しくは分からないけれど、もしかしたら、きみの思いに共鳴したのかもしれないね」
「共鳴? どう言うこと?」

 フリューゲルの考えをもう少し詳しく聞きたくて問い返す。女の子も不思議そうな顔をしてフリューゲルの言葉を待っていた。

「人は、時々他人の思いを受け止める力を持ってる人がいるんだって。きっと、その子はきみの強い思いを受け止めたんじゃないのかな。うまく言えないけど」
「ふ〜ん」

 女の子は不思議そうに頷いた。他人の思いを受け止める人か。そんな人に出会えたのなら、この子は、きっと昇華出来るだろう。

「なかなか僕たちのような存在と関わりを持つことが出来る人はいないからね。きみが嫌じゃなければ、交流を深めたらいいと思うよ」

 フリューゲルの言葉を真剣に聞いていた女の子は、コクリと小さく頷く。

「もしかしたら、新しい友達が出来ちゃうかもね」

 少し固くなった空気を緩めるために、私はわざと弾んだ声を出す。

「ともだち……」

 女の子は小さく呟いた後、嬉しそうにはにかんだ。小さな笑顔は期待に満ちていて、とても可愛らしかった。

 女の子の笑顔に私も笑い返す。

「さて、あなたの願いを叶えるためにも、ここの花壇のお手入れを頑張りましょ!」

 私は、声を張り上げた。

 結局、その後もフリューゲルと女の子は話し込んでいて、作業はほとんど私一人でやった。作業をしながら、時折二人の会話に混じる。手を動かしながら、口も動かしていたら、いつもよりも作業の時間はあっという間に過ぎた。

 女の子とまた会う約束をして、部活を終えた私は帰り支度をする。いつもは、きちんと制服に着替え直して帰るのだが、今日は、作業開始の時間が遅かったうえに、話しながら作業をしていたので、思ったよりも部活の終わり時間が遅くなってしまった。

 もうすぐ春とはいえ、まだ二月。帰る頃にはすっかり陽が落ち、空は私の帰宅を急かしていた。

「アーラ、着替えないのかい?」
「今日はちょっと遅くなっちゃったから、このまま帰るよ」

 ジャージに付いた土を払い、埃まみれの体をほんの気持ちだけ綺麗にすると、荷物を手に校門へと歩き出す。