「う、うん。アドバイスありがとう。私、これからしっかりと青島くんのこと見るね」

 答えた私を何故だか苦笑気味に見やりながら、緑は手を振り校内へと戻っていった。

 青島くんか。彼と友人になってから、それなりに彼のことを見てきたつもりだったけれど、どうやら、それでは足りないらしい。

 彼の視線に気づいたらこれまでよりも楽しくなるって、それって一体どういうことなんだろう。青島くんが私を楽しませてくれるのだろうか。それならば、今だって十分に楽しませてもらっているけど。

 正解が分からず悶々と考えていると、コソコソとした話し声が耳に入ってきた。

「天使様。もしかして、センパイは今の話、分かっていないのですか?」
「う~ん。どうやら、そうみたいだね」

 女の子がフリューゲルに耳打ちをするように言うと、フリューゲルはそれに深く相槌を打っていた。

「ちょっと。二人とも。聞こえてるわよ。ってか、フリューゲルだって、どうせ今の緑ちゃんの話、分かっていないでしょ!」

 私がビシリと指を突き付けると、フリューゲルは、すまし顔でそっぽを向いた。そんな私たちのやり取りに、女の子は目を丸くする。

「天使様たちは、実はかなりの鈍感さんなのですね」

 ボソリと漏れた私たちに対する感想に、そっぽを向いていたフリューゲルもピクリと反応を示す。

「僕は、アーラよりはちゃんと分かってるよ」
「本当に? じゃあ、どういう意味だったのか言ってみてよ」

 売り言葉に買い言葉。私に分からないことが、フリューゲルに分かるはずがない。それなのにフリューゲルは意地を張る。

「いいけど? でも、本当にいいの? 僕が言っちゃったら、アーラ困らない?」
「こ、困らないわよ」

 そんな私たちのやり取りに、女の子がクスクスと笑いだす。その笑い声は、次第に私とフリューゲルにも伝染し、いつしか三人でクスクスと笑い合う。

「あ〜。可笑しい。こんなに笑ったの、久しぶり」

 女の子は満面の笑みを浮かべる。まだ幼いその笑顔は、本当に楽しそうだ。そうか。ココロノカケラだろう彼女は、長い間、他人との交流がなかったのだろう。どれだけの間、一人の時間を過ごしたのだろうか。

 そんな事を考えて、ふと先ほどの男の子のことを思い出した。

「ねぇ。そう言えばあの男の子は、仲良しじゃないの?」

 私の問いに、女の子は、小さく肩をすくめてみせる。

「知らない。何故だかあの子には見えるみたいで、最近、話しかけてくるの。これまでは誰も……」