「あなたね。何なの。いきなり現れて。私がどれだけ心配したと思ってるのよ」

 私の剣幕にも怯むこともなく二ヘラと笑ったフリューゲルの笑顔に、さらに苛立ちが増す。

「何で笑ってるのよ?」

 睨みを効かせて、ふにゃりとした笑顔を弾き返すが、そんなことすら気にする様子がない。

「あはは。アーラ、上手に怒るようになったね」
「もう、本当に何なのよ!」

 握り拳を一振りして、ダンと足を踏み鳴らす。

「あれ? ムッキーじゃなくていいの?」

 相変わらずのフリューゲル。のんびりしているのは彼らしいけど、今はまるで真実をはぐらかされているようで、なんだか余計に腹が立つ。

「揶揄うのはやめて。本当に心配したのよ。あんな別れ方をして……」

 怒りが頂点に達した私の目からは、ポツリと涙が落ちた。一粒落ちてしまうと、その後は次から次へと涙の粒が頬を伝っていく。

 ようやくフリューゲルの声から戯けた色がなくなった。

「ごめん。あの時は、僕も混乱してしまって……」
「どこに行っていたのよ?」

 鼻をグスッと鳴らして、私はフリューゲルにジト目を向ける。

「あの後、僕は庭園(ガーデン)に戻ったんだ。しばらくは一人でじっくりと考えて、その後、司祭様にお考えを聞いてみた」
「ふ〜ん。司祭様はなんて?」

 私は話の先を促したけれど、フリューゲルは困ったように眉根を寄せた。

「ああ。うん。その話の続きをこのまましても良いんだけど、アーラは作業の途中だったんじゃないの? それ、大丈夫?」

 フリューゲルが私の足下を指すので、つられて視線を下へ向けると、思わず声が漏れた。

「ああ。肥料!」

 落とした拍子に袋が破れてしまったのだろう。茶色の土に似た肥料が床に溢れ出ていた。

「やばい!」

 庫内の隅へ行き、箒とちりとりを手にすると、肥料を掻き集めるために床を掃く。埃と砂の混じった肥料を掃き集め、ちりとりに収めた。

 これでも花壇に撒くには問題ない。仕方ない。これを使おう。肥料だってタダじゃない。無駄には出来ないのだ。

「あのさ。話の続きを聞きたいけど、今はこっちをやらなくちゃ。あ、そうだ。相談したいことがあったの」
「相談したいこと?」
「うん。実は私、どうやらココロノカケラに出会ったみたいなの」
「え? ココロノカケラ? ココロノカケラって、あの?」
「うん。たぶんなんだけどね。以前に司祭様に教えていただいた、あのココロノカケラだと思う」

 私の言葉を聞いたフリューゲルは、しばらくの間、じっと私の事を見つめていた。