「生まれる前の事覚えてる奴、そうそういないと思うぞ。まぁ、稀にいるって話聞くけど、覚えているやつの方が絶対特殊だから」

 青島くんの言葉に、鼻の奥の痛みも忘れて、目を見張る。そんな私を不思議そうに見つめながら、青島くんは自身の飲み物をズズッと啜った。

「何? 白野はさ、双子の片割れの事を覚えていなかったことを気にして泣いてたのか?」
「え? うん。まぁ。覚えていなかったこともそうだし、あの子だけどうしてって思いもあったし……一緒に居たかったなとか……なんかいろいろ……」

 自分自身、何故部屋を飛び出してしまったのか、何故青島くんの前で涙を流してしまったのか分からないでいたので、言葉がどうしても曖昧になってしまう。

 そんな拙い私の言葉が途切れるまで辛抱強く聞いていた彼は、尻すぼみになった私の言葉を丁寧に拾ってくれた。

「白野はさ、片割れの事を想って、哀しくて泣いたんだな」
「哀……しい?」
「うん。一緒に居られなかった寂しさとか、自分だけこの世に生まれてきてしまった辛さとか、申し訳なさ? みたいなものが、白野の中にあったんじゃないのか」
「そう……かも。あの子だけ生まれてこれなかったってことが、私どうしても……」

 それから先は言葉が出てこなかった。代わりに、止まったと思っていた涙が再び溢れ出す。後から後から溢れ出る涙を止める術がない私の手を、青島くんがそっと握ってくれる。涙で濡れた瞳を青島くんに向けると、彼は、握った手により一層力を込めた。

「今は、双子の片割れを想ってたくさん哀しめばいいよ。白野が泣き止むまで俺がそばにいる。でも、泣き止んだ後はもう哀しむのはやめよう。きっと双子の片割れは、そんなこと望んでいないと思う」

 涙をポトリと落としながら、私は青島くんの言葉に聞き入った。

「白野がこれまで片割れの存在を忘れていたのだとしても、今、白野はこうして想っている。哀しんでいる。きっとそれで充分じゃないかな。俺がその片割れだったら、白野がずっと哀しんで塞ぎ込んでいるより、自分の分まで元気に笑っていてほいしと思う」
「……私だけ、笑ってもいいの?」

 私の涙混じりの声に、青島くんは力強く頷いた。

「ああ。いい! むしろ、笑っていないとダメだ。もしも、片割れがそんな白野を見たらどう思うか分かるか? きっと、泣いている白野が心配で、片割れまで哀しい思いをすると思うぞ。白野は、仲の良かった片割れにそんな思いをさせたいのか?」