「白野。これでも飲んで落ち着いて」

 言われるがままにミルクティーを口に含む。ミルクティーの甘さがごちゃごちゃに絡まった頭の中をほぐしてくれるような気がして、さらにもう一口飲んだ。

 私が少し落ち着いたのを見計らうようにして、青島くんが口を開いた。

「白野はさ、パラレルワールドって聞いたことある?」
「パラレルワールド?」

 聞いたことのない言葉に首を傾げる。

「知らないか。パラレルワールドっていうのは、小説とかフィクションの中では、もう一つの現実世界だって言われているんだ」
「もう一つの現実世界? やっぱり、どっちも現実ってこと?」
「そう。でも、それはあくまでフィクション、作り物の中で言われていることであって、実際にはパラレルワールドがあるのかないのかなんて、知りようがないんだ」

 いつもは端的に話をしてくれる青島くんの言葉が、今日はなんだかまだるっこしい。

「つまり、どういうこと?」
「つまり、どっちが現実かなんて俺たちには分かりようがないってこと」
「そんな……」

 青島くんの答えに愕然としていると、青島くんは、仕方がないというように眉尻を下げた。

「だってそうだろ。現実だと思っているからこそ、ここは現実なわけで、もしかしたら、本当は仮の世界かもしれないし、もう一つの、いわゆるパラレルワールドなのかもしれない。でもそれはどんなに考えたって分かりようがないんだ。まぁ、仮想世界に関してはログアウトができるから、仮の世界だったって分かるけどな」

 ポカンと口を開けて青島くんの推論を聞いていた私に、彼は曖昧に笑って見せる。

「もしパラレルワールドがあって、向こうが現実だったとしても、俺には向こうに行く術はないし、ここの世界が俺にとっての全てだから、俺にはここが現実なんだ」

 青島くんの話を聞いていたら、本当に途方もないことで私は悩んでいたのだと気が付いた。私に庭園(ガーデン)での記憶があるから混乱したけれど、確かに、ここが現実かどうかなんて私には分かりようもない。

 私に分かることは、雲の上からいつも下界を見ていたことと、フリューゲルがいつもそばに居てくれたこと。それから、今は白野つばさとして、下界で勉強中であること。それが、今の私の全てだ。

 そうだ。私は大樹と司祭様の御意思でこの世界で学ぶことになったのだ。ならば、学びが終わって庭園(ガーデン)に戻った時に司祭様に伺えば、全ての混乱は解けるはずだ。私とフリューゲルの関係も。私たちのあの記憶も。