青島くんに促され、混乱したまま私は胸の内を、ぽつぽつと言葉にしてみた。

「あのね。もし、作られた世界だと思っていた場所が、実は本当の場所だったとしたら、どうしたらいいのかな?」
「ん? ごめん。ちょっと意味が分からん」

 私の言葉を聞いた青島くんは、早速困り顔だ。

「そうだよね……」
「作られた世界って、最近流行りのVRの仮想世界ってことか?」
「VR?」

 今度は私が青島くんの言葉がわからなくて首を傾げる。

「あ~。違うのかな? 疑似体験できる世界っていうか……」
「疑似体験? そう。そうかも。違う世界を体験できるっていう意味なら」

 疑似体験とは、まさに庭園(ガーデン)からこの下界へ来た私の生活そのものを表しているような気がして頷いた。

「仮想世界が現実だったら、どうしたらいいかってことか?」
「うん。そう。仮の世界ってことは、現実はもちろん別にあるじゃない? でも実は、仮の世界が現実なんだって言われたら、それまで現実だと思っていた場所は何なんだろうって……」
「う~ん。確かに混乱しそうな内容だけど、白野はそんなことを考えてて、家を飛び出してきたのか?」

 青島くんは腕を組みながら、私のよく分からない話に首を捻る。

「ああ。……えっと……うん。それはまあ、きっかけっていうか、さわりっていうか……」

 私がもじょもじょと曖昧な物言いをしている間も、青島くんは呆れることなく、私の話に真剣に付き合ってくれる。

「変わったこと考えるんだな。仮想世界が現実か。向こうが現実ってことは、こちらの現実だと思っていた世界が仮想ってことになるのか?」
「そういうことだよね。やっぱり。でも私は……」

 青島くんの言葉に頷きつつも、やっぱり納得ができない。

 今いるこの世界が、私にとっての現実なら、これまでのアーラとしての生活は一体何だったのか。庭園(ガーデン)での暮らしが、今もしっかりと私の中に残っているのに。あれが現実じゃないなんて、どうして言えよう。

 納得が出来なくて、つい険しい表情になってしまった私には気が付かず、青島くんは何かを考えるように目を閉じて眉根を寄せた。

「いや、そうとも限らないか。両方とも現実ってことも……」
「え?」

 考えもつかなかったことだ。まさかそんなことがあるのだろうか。

「両方ともが現実なんてことがあるの?」

 体ごと青島くんににじり寄り、鼻息を荒くした私の肩を優しく押し戻した青島くんは、流れるように私用のぬるくなり始めたミルクティーを手渡してくれる。