時折吹く風が私の体を硬くする。それでも今はまだ、彼を一人置いてきた部屋に戻る気になれなかった。

 住宅街を抜けた先にあるコンビニを目指す。あそこなら風が凌げて暖が取れるだろう。きちんと頭の中を整理したい。今の状況をそれなりに理解できれば、またいつものようにフリューゲルとも話ができるはずだ。

 外気の冷たさに頬を強張らせながら、コンビニに到着した私は、明るい店内に見知った顔を見つけ、思わず店先で足を止める。

 雑誌を楽し気に読み耽っているその人を店の外から眺めていると、私の視線が気になったのか、ふと上げた顔が瞬時に驚きの色に染まった。

 慌てたように店内から出てきたその人は、小走りに私のそばへとやってきた。

「白野。どうしたんだ? そんな薄着で」
「青島くん」

 青島くんは、羽織っていたウィンドブレーカーを脱ぎ、私の肩にかけてくれた。温かい。思わず彼の温もりに包まるように、襟を掻き合わせる。

「ちょっと待ってて」

 そう言うと、青島くんは急ぎ店内へと戻っていった。ぼんやりとしていると、すぐに彼が戻ってきた。

「はい。温かいミルクティーでいいかな?」
「え?」
「だって、白野の唇、真っ青で寒そうだから、温かいものを飲んだ方が良いかと思って」

 ニカリと笑いながら、私の頬に買ったばかりのペットボトルを押し当ててくる青島くんの顔が、ぐにゃりと歪んだ。

「なんだ?! おい。白野どうした?」

 焦る青島くんの声に、私は何も言わず首を振る。その行動とは裏腹に、私の頬は次々に濡れていく。胸に詰まった言い表すことのできない寂しさを押し流すように、私はただ涙を流した。

 そんな私の手を取った青島くんは、何も言わずに煌々と光を放つ店内へと入り、店の片隅に設けられた狭いイートインスペースへと私を(いざな)った。

 私を椅子に座らせると、青島くんは、「ここにいて」と言い置き、私のそばをツッと離れていった。

 私は一人、鼻を啜る。

 なんで涙が出るんだろう。

 鼻を啜り、手の甲で涙を拭う。拭っても拭っても、止まる事なく零れ落ちる涙に途方に暮れていると、ポンと肩を叩かれた。

 瞳を上げると、トレーに大量のホットスナックを乗せた青島くんが立っていた。

「白野。夕飯食べた? まだだったら、コレ、一緒に食べよう」

 私の隣に座ると、青島くんは早速、簡易包装された包みからアメリカンドッグを取り出し、付属のケチャップとマスタードを勢いよくかけた。それを包みへと一旦戻してから、私の方へ押しやる。