そう。私は怒っていたのだ。理不尽に花壇を荒らされたことに。姿を隠して攻撃をしてきた木本という女子生徒に。

 私も緑の様に眉を顰め、両拳を突き上げる。

「ムッキー」
「あはは。そうそう」

 緑に笑われながら、もう一度拳を突き上げた。緑も一緒に拳を突き上げる。

「ムッキー」

 二人して、可笑しな言葉を連呼しているうちに、私の心はすっかりと青空を取り戻した。

「あはは。なんかスッキリしたかも」
「うんうん。怒りは吐き出すのが一番。溜め込まず、誰かに話しちゃえばいいんだよ」

 緑の笑顔に、私も笑顔で頷く。

「さぁ。じゃあ、スッキリしたところで、ちょっと、図書館のお仕事を手伝って貰おうかしら」

 司書が頃合いを見計らったかのように冗談めかした笑顔で、席を立つ。

「はーい」

 緑は勢いよく手を上げて、先を行く司書の後を追いかけるようにして司書室を出て行った。

 後に残された私は、すっかり冷えてしまったお茶を飲み干すと、机に残されたままになっていた人数分のカップをシンクへと持っていく。

 キラキラとした光に誘われて、視線を窓の外へ向ける。窓の向こうの中庭には、いくつもの水溜まりができており、それらが、光を反射して輝いていた。いつの間にか雨は上がり、私の心と同じで、空もすっかり晴れたようだ。

 そんな中庭の真ん中にフリューゲルの姿を見つける。フリューゲルはこちらを向いて立っていた。

 何だろうと思い見つめていると、フリューゲルは突然、両拳を突き上げ、顔を顰めて見せる。

 フリューゲルのそんな姿に私は、プッと吹き出しながら、後で、フリューゲルとたくさん話をしようと心に誓った。