しかし、自分でも心の内がよく分からなくて、そう表現するしかないのだ。

「なんて言ったらいいのか分からないの。なんかね、今の空みたいに、どんよりとした黒い雲みたいなモヤモヤしたものが、私の心を覆い尽くす様に広がってる感じっていうか……」

 なんとか心の内を言葉で表現してみる。もっと上手く伝えられたらいいのだが、なかなか思いを的確に表す事ができない。

「せっかく整備した花壇を荒らされて、嫌だなぁとか、酷いなぁとか思っていたら、どんどん心の中に黒い雲が広がってきて、そのうち、天気が酷くなるみたいに、心の中が荒れてきたの」

 上手く言葉にできているかは分からないけれど、それでも、私は必死で心の内を緑に話す。

「あの子が自分の仕業だって言ったのを聞いて、もう私の心の中は、雷が鳴って酷く荒れ狂ってた。黒いモヤが渦を巻いているんじゃないかってくらい、心の中をぐちゃぐちゃにかき混ぜられてたの」

 全てを吐き出し、私はふぅと息をつく。目を丸くして私の話を黙って聞いていた緑も、私が口を噤んだのを見計らって、一息つくと、お茶を一口飲んだ。

「なーんだ。つまり、つばさちゃんは、怒ってたのを知られたくなかったって事ね?」
「怒ってた?」

 緑の言葉に、私は首を傾げる。

「あれ? 自覚なし? まぁ、いつものほほんとしている天然のつばさちゃんが怒るなんて想像つかないけど、人なんてそんなもんだよ。気にしない気にしない」

 あっけらかんと言う緑に、私はなおも首を傾げた。

「私、怒ってたの?」
「えっ? そうじゃないの? イライラ〜とかモヤモヤ〜が心の中を渦巻いてたんでしょ?」

「う、うん。そうかな。多分」

 緑の言葉は、抽象的でよく分からなかったが、言われてみれば、私の心の中は、そんなよくわからない感情が渦巻いていた様な気がする。

「嫌なことされたら怒って当然! 怒り狂ったからって、私は、つばさちゃんのことを嫌いになったりしないよ」
「怒り狂う……」
「そうそう。ムッキ〜ってね」

 緑は眉を顰め、唇を尖らせながら、両拳を突き上げる。その姿には、まさに「ムッキー」と言う表現がピッタリだと思った。

「あはは。なにそれ? それが怒り狂う?」
「うん。そう。えっ? 違う?」

 緑の怒り狂うポーズが可笑しくて思わず、声を上げて笑ってしまう。隣で、司書もクスクスと笑みをこぼす。

 なんだか、間抜けだが可愛い緑の姿は、黒い雲に呑まれそうになっていた私の気持ちを的確に表している様な気がする。