幼少の頃は、青島くんが他の子と遊んでいたことで、木本さんが癇癪を起こすことはしょっちゅうで、その度に、青島くんは仕方なく木本さんの相手をしていたそうだ。

 しかし、小学生になり自然と異性の友達と距離ができ始める頃になると、青島くんも木本さんの相手をしなくなった。それなのに、緑とだけは、変わらず付かず離れずの距離を保ち、気安く言葉を交わしていた。その事が木本さんには面白くなく、彼女は、緑に対して執拗な嫌がらせをしたのだと言う。

 それでも、緑のあっけらかんとした性格が功を奏し、また幼少の頃から木本さんの性格を知っていた事で、緑は、木本さんから受ける嫌がらせを面倒臭いと思いつつも、大ごとにせず、上手いこと受け流していたらしい。

 中学生になると、木本さんの面倒臭さを知っている子たちは、青島くんと関わることを自重し、時折、事情を知らない女の子だけが、青島くんと交流を持とうとしたという。しかし、すかさず、木本さんからの洗礼を受け、女の子たちは青島くんと関わる事を諦めていったらしい。だから、青島くんはモテないのだとか。

「まぁ、ヒロくん本人も、木本の事を面倒くさいと思ってはいるだろうけれど、モテない事については、あまり気にしてないみたいだけどね〜。あいつ、サッカーバカだからさ」

 そう言って可笑しそうに笑った緑の話を聞いて、少し納得した。

「そっか。青島くん、優しくて素敵なのに、どうして女の子に人気が無いのか不思議だったけど、木本さんのせいだったんだね」
「いや〜。それはどうかな。まぁ、木本のせいってのはあるけど、そもそもヒロくんって、女子にそんなに優しくないよ。ってか、面倒臭いって言って、あまり関わろうとしない人だよ」

 緑は私に意味ありげな視線を向けながら、またもや可笑そうに笑う。

「えっ? そうかな? 優しいと思うけど? 前に私が怪我した時も肩を貸してくれたし。いつも何かと心配して声を掛けてくれるよ」

 私の言葉に、緑は訳知り顔でうんうんと相槌を打つ。

「そう。ヒロくんは優しい」
「ほら、やっぱり」

 しかし、いつまでもにやけ顔のままの緑は、首を振って私の指摘を否定した。

「でもそれは、私の知る限り、つばさちゃんにだけだよ~」
「え?」
「ヒロ君、他の女子には、別に優しくなんかないよ。木本に対して顔を顰めることはあっても、木本に絡まれている子を助けてあげているところなんて見たことないもん。私も、助けてもらった事ないし~」