「ヒロくんのことを名前で呼ぶ木本っていえば、アイツしかいないから、決まりね。でも、面倒くさいのに目を付けられたね。つばさちゃん」

 緑は、困ったっと言いたげに眉尻を下げる。

「面倒くさいって、どういう事?」

 緑の指摘を、私より早く司書が拾う。

「木本徳香って、まぁ、何というか、ヒロくん……青島大海の追っかけなんですよ。昔から」
「昔から?」
「そうなんです。実は、私とヒロくんと木本徳香は、幼稚園からの腐れ縁でして」
「あら? 幼馴染なの?」

 司書の驚いた顔に、緑は顔を顰めて答える。

「まぁ、幼馴染といえば、そうなんでしょうけど……。私とヒロくんは、親同士が元々仲が良くて、昔から家族ぐるみの交流があるんです。昔は良く二人でヤンチャしてました」

 そう言って、二ヘラと笑う緑の笑顔の中には、いつものふわりとした感じと、どこか子供めいた天真爛漫な笑顔が共存していた。

 しかし、そんな笑顔をすぐに引っ込めて、緑は顔を曇らせる。

「でも、木本とはあまり……私、あの子に目の敵にされてるのよね」
「目の敵?」
「そう」

 私は、緑の話がよく分からなかった。いつも元気で明るく、誰とでも直ぐに打ち解ける緑は、他人に不快感を与えない。

 そんな彼女の姿が素敵だと常々思っている私は、友人である緑に、実は憧れを抱いているのだ。

「緑ちゃんは、誰とでも仲良く出来るのに、何であの子は?」
「あの子、昔からヒロくん一筋なの。だから、いつもヒロくんと遊んでいた私が邪魔だったんだと思う」
「それって……」

 それは、木本さんが私に嫌がらせをしてきた理由と同じだった。

「青島くんの周りをウロチョロして鬱陶しい……」

 木本さんに言われた言葉が、不意に口をついて出た。その言葉に、緑ちゃんは、苦笑いを浮かべる。

「まぁ、そんなところ。ってか、つばさちゃんから、そんな言葉、聞きたく無いわ〜」

 緑は自身の頬を両手で挟みながら、イヤイヤと首を振った。表情豊に気持ちを表現する緑を可愛いと感じながら、私は苦笑気味に笑う。

「違うの。緑ちゃんのことをそんな風に思ってないから。私があの子に言われたんだ」
「ああ。木本なら言いそうね。実際、私も言われた事あるし」

 緑は、変に納得の声を出す。

 緑の話によると、木本徳香と言う女子生徒は、自分以外の女子が、青島くんと仲良くすると、まるで癇癪を起こしたかの様に、私にした様な嫌がらせを相手の女子が青島くんのそばから離れるまで毎日のようにつづけるのだとか。