すると、それを見計らっていたのか、手持ち無沙汰になり近くの席に腰を下ろして頬杖をつきながら私のことを見ていた緑が、口を開いた。

「それで?」
「うん?」

 緑の端的な質問の意味がわからず、首を傾げる。緑の視線の中には、心配の色が見え隠れしていた。

「つばさちゃんは、そんなにずぶ濡れになるまで、外で何してたの?」
「え? だから、花壇のお手入れを」
「……そんなわけないよね? 私には話せない事?」

 私の答えに一瞬口をつぐんだ緑は、つぶらな瞳を寂しそうに揺らす。

 そんな彼女を見て、私は慌てて首を振った。

「違うよ。ただ、ちょっと話をしてただけ」
「ヒロくんと? そんなに濡れるまで? 違うか。ヒロくんなら、つばさちゃんをこんなに濡れさせたりしないよね」
「あ、青島くんは、関係ないよ」

 彼に非がない事を伝えると、緑はさらに怪訝そうに眉を顰める。

「じゃ、そんなに濡れてまで誰と話していたの?」

 緑の追求は止まらない。彼女が興味本位から、話を聞き出そうとしているわけではない事は分かっている。でも、あの黒くモヤモヤとしたものが、自身の心の内にあったなどと知られたくなくて、私は言葉に詰まる。

 しかし、緑は根気強く私が口を開くのを待っている。

 そんな私たちの間に、カチャリと小さな音を立てて、暖かそうな湯気を上げるカップが置かれた。

「葉山さん。そんなに詰め寄ったら、聞かれている方も、話しにくいんじゃないかしら? まずは、二人ともお茶でも飲んで落ち着きましょ」

 司書が苦笑い気味に、緑を嗜める。そんな司書に緑は肩をすくめてみせた。

「私、つばさちゃんのことが心配で……お茶、頂きます」

 顔を伏せ、シュンとしながらカップを手に取る緑に司書は微笑みながら、今度は私へと視線を向けた。

「あなたも、乾かしながらでいいから、お茶を飲んで。体が温まるから」
「はい」

 私は司書に促され、緑の向かいの席に腰を下ろす。少々行儀は悪いが、ドライヤーを片手に、カップのお茶を一口飲むと、体の内側もほんのりと暖かくなった。

「美味しい」

 お茶の暖かさにほっと息を吐き、思わず私の口から溢れた言葉に、司書がニコリと笑みを見せる。それから、自身もコクリと一口お茶を口にすると、静かに口を開いた。

「お茶には鎮静作用があるの。だから、私は、心が騒ついている時なんかは、特に温かいお茶を飲むようにしてるのよ」
「確かに、なんだかほっとします」

 司書の言葉に頷きながら、私は、もう一口お茶を飲んだ。