ポスターを見ながら呟いた私の言葉に、隣にいるフリューゲルが不思議そうに聞いてくる。

 私は、ポスターの中心を指す。

「この真ん中の木、大樹様(リン・カ・ネーション)みたいじゃない?」
「う~ん。大きくて立派な木には見えるけど……」
「やっぱり! そうでしょ。こんな立派な木、滅多にあるものじゃないよ」

 私は一人納得して、止めていた足を再び学校へと向けた。歩き出すと、フリューゲルが後を追ってくる。

「ねぇ、どうして森林保護団体なの?」
「だって、あの写真見たでしょ。あんなに大きな木の存在を知っているってことは、木に詳しいのよ。それにポスターには“守ろう森林”ってあったでしょ。きっと、弱った木を元気にする方法を知ってるはずよ」

「う〜ん。そうかも知れないけど、でもどうして?」

 フリューゲルは、まだわからないという顔をしている。

「だからね、大樹様(リン・カ・ネーション)を直す方法が分かるかもしれないでしょ。きっと、私の『学び』は大樹様(リン・カ・ネーション)を甦らせる方法を知ることなのよ」

 私は、下界で木のことをたくさん学ぶ。庭園(ガーデン)へ戻ったら、その経験を基に大樹のお世話をする。

 きっと、これが大樹の望みなんじゃないかな。そう思うと、先が少し明るくなったような気がした。

 フリューゲルは、腕組みをしてまだ浮かない顔をしている。

 やっと前進するきっかけを見つけたのに、なんて顔をしてるのかしら。仕方がない。私のお気に入りのあの場所を見せてあげよう。あれを見れば、フリューゲルの心も晴れるはず。

 私は、声を弾ませて言った。

「あのね、すぐ先の空き地、私のお気に入りの場所なの。きっと、フリューゲルも気に入るはずだよ。ちょっと行ってみよ!」

 私は、五十メートルほど先の空き地へ駆け出した。

「ちょっと待ってよ。アーラ」

 そう言いながらも、フリューゲルに慌てた様子はない。Noel(ノエル)の彼は、走ったりはしない。ゆっくりと自分のペースを守って、私の後をついてきていた。

 先に着いた私は、空き地の入口にしゃがみこむ。

 この場所には、近いうちに新しい家が建つらしい。少し前から、作業用の大きな車が停まっているのを見かけるようになった。私がしゃがんでいるすぐ横には、木材をたくさん積んだ車が今日も停まっている。

 なぜ、そんな空き地がお気に入りなのかというと、実はここに小さな白いベルの形をしたかわいい花が咲いているのだ。大樹の花をすごくすごく小さくしたみたいな花。この花を見ていると、少しだけ庭園(ガーデン)を近くに感じられるような気がしていた。