考えてみれば、これまで常に一緒にいたフリューゲルと、またいつでも話ができるようになったのだ。それだけでも十分じゃないか。もう、私は一人じゃなくなったのだから。

 すっかり萎れてしまったフリューゲルに、私は明るく声をかけた。

「ねぇ、フリューゲル。下界からはね、どんなに空を見上げても雲の上にある庭園(ガーデン)は見えないの。だから、これからは、あなたが私に庭園(ガーデン)での出来事を教えてくれる?」
「うん。それなら任せて。なんでも聞いてよ。と言っても、庭園(ガーデン)は、特に変化はないけどね」

 顔を上げたフリューゲルは、いつもの様に的確に事実を述べる。そう、彼はそれでいい。フリューゲルは、いつもの落ち着きを取り戻したようだった。

「それじゃあ、大樹様(リン・カ・ネーション)の様子はどう?」
大樹様(リン・カ・ネーション)は、相変わらずだよ。あれから蕾の成長は止まったまま。成長しきった蕾がいくつかあるから、今はまだNoel(ノエル)は生まれてくるけど、蕾の数はだんだん減ってきてる」
「そうなの……。それについて司祭様は何か仰ってるの?」
「何も。他のNoel(ノエル)たちには、このことを伝えていないみたいだし」
「やっぱり、大樹様(リン・カ・ネーション)を元に戻すには『学び』が必要なのかしら……」
「司祭様がそう仰るんだから、きっとそれしか方法はないんだよ」

 やっぱり、私がすべき事は『学ぶ』ことなのだろう。それは分かっている。司祭様の仰ることに、私たちはいつだって従ってきた。そうすることが当たり前なのだ。

 ただ、私はここで何を学べばいいのか、それが分からない。大樹を救う方法が下界にはあるというのか?

「アーラ、どうしたの?」

 無口になった私を気遣うように、フリューゲルが声をかけてくれていたが、考え事に夢中になっていた私には、その声はほとんど聞こえていなかった。

 これから先、何をどうすれば良いのか。歩きながら必死で考えていると、塀に貼られたポスターが目に留まる。何かが心に引っかかり、私はポスターの前で立ち止まった。

 それは、大きな1本の木が中心に(そび)えていて、遠くのほうには豊に茂った森が広がっている写真だった。そして、スローガンが白い字で大きく書かれている。

“守ろう森林 増やそう豊な緑”

 そんなスローガン付きのポスターの発行元は『日本森林保護団体』というところらしい。

 中心の木はまるで、庭園(ガーデン)の大樹のように大きい。その大きな木をぼんやりと見つめているうちに、ふとある考えが浮かんできた。

「森林保護団体の人に会ってみようかな」
「どうして?」