彼は、一瞬戸惑ったがすぐに察してくれたようで、同じように小指を出してきた。指を絡めた瞬間、胸の奥がトクンと跳ねる。

 あぁ、きっと私はこの人のことが好きだ。

 そんな想いが溢れてくる。でも、まだ気づかないフリをしよう。もう少しだけ、このままの関係に甘えよう。いつか私の中ではっきりと「好き」が形になったら、その時はしっかり青島くんに気持ちを伝えたい。

 その時はきっとそれほど遠くないはずだから。だからそれまで、もう少し待っていて。

 私は心のなかで青島くんに語りかけた。

 絡まった小指が解かれ、私たちは再び歩き出す。私たちの足取りは軽かった。

「ねぇ、青島くん。そろそろ何処に行くか教えてくれない?」

 私がそう訊ねると、青島くんは悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「着いたぞ」
「え? ここ?」

 私は目の前の建物を見て思わず声を上げてしまった。真新しい一軒の住宅。二階建ての白い外壁に青い屋根が映える、可愛らしい家だ。どう見ても個人宅のようだが、どうして青島くんはここに私を連れてきたのだろう。

 訝る私をよそに、青島くんはそそくさとインターホンを押す。インターホンに向かって慣れた様子で挨拶をすると、門扉を押し開けた。

「こっちだ」
「え? だって、人のおうちでしょ。勝手に入っていいの?」

 慌てる私に先を行く青島くんが手招きする。渋々ついていくと、小さな庭があった。そこには、ベルのような形をした白い花が咲いていた。

「あ、この花……」
「一年前、白野が見ていた花ってこれだろ。ホワイトエンジェル」

 私はコクリと首を振る。

「クレマチスの一種だよ。もうそろそろ終わりの時期だから、間に合ってよかったよ」
「へぇ〜。やっぱり可愛い」

 私はしゃがみ込み、間近で眺めた。花を眺めて楽しんでいると、後ろから声をかけられた。

「こんにちは。今日は可愛らしい子も一緒なのね」

 振り返ると、玄関の前に女性が立っていた。穏やかな笑顔を湛えたその女性は七十代くらいだろうか。

「あ、あの……」

 戸惑う私に彼女はニコリと微笑む。

「ゆっくりしていらして」

 女性はそう言うと、家の中に入っていった。

「あ、ありがとうございます!」

 私は慌てて頭を下げ、彼女を見送った。

「あ、あの人は?」

 何が何だか分からなすぎて混乱気味の私に、青島くんは苦笑いした。

「白野、この場所どこだかわかってるか?」「え? ここ……?」

 私は一度庭を出ると改めて辺りを見回す。見覚えのある風景だったことに、アッと声を上げた。