「あ、ああ。たぶん白野が好きなところ」
「えっ? 私の好きなところ? どこだろ?」
「行けばわかるよ」

 青島くんはそう言うと悪戯っぽく笑った。

「何それ~」
「着いてからのお楽しみってことで」

 他愛のない会話をしていると、校門を潜りやってきた女子生徒に声をかけられた。

「あら、二人とも。仲が良さそうで、妬けちゃうわ」

 私たちを見る緑の顔は何処となく嬉しそうだ。青島くんは、そんな緑の視線を嫌そうに避ける。

「別に、そんなんじゃない」

 ボソリと言葉を発した青島くんの背中を、緑は笑いながらバシっと叩く。

「もう! 照れちゃって!」
「痛いな……」

 彼は困り果てたような声を上げた。そんな彼のことなどお構いなしに、彼女はコロコロと笑い声を上げる。

「今、帰り?」
「そう。緑ちゃんは?」
「私は、これから図書館でお手伝い」
「そっかぁ……。大変そうだね。頑張って!」
「うん、ありがとう。つばさちゃん。ヒロくんにしっかり送ってもらうんだよ〜」

 ニッコリと笑ってそう言うと、彼女はヒラヒラと手を振り校舎の方へと歩いていった。その後姿が見えなくなるまで見送っていると、不意に青島くんの手が伸びてきて私の頭をクシャリと撫でた。

「な、何……」

 なんだか嬉しいような恥ずかしいような気持ちになり、私は俯く。

「俺たちも行くぞ」
「あ、うん」

 彼に促され、歩き出す。その途中、青島くんがポツリと言った。

「葉山には、全部お見通しだったみたいだな」
「え? どういうこと?」
「俺たちのこと」

 彼が何を言っているのか分からず首を傾げる。

「さっき、俺が白野を送っていくこと、分かっていたみたいな言い方してただろ?」
「ああ。確かに。言われてみればそうだよね。どうして分かったんだろう……?」
「葉山は周りをよく見てるからな」
「なるほど〜。さすが、緑ちゃんだねぇ」

 感心していると、彼は少しだけ呆れ顔になる。

「お前なぁ……。まあ、いいや」

 彼はそう呟き、何かを言おうとして口を閉じた。そして、また口を開く。

「あのさ、白野」

 彼は真剣な眼差しで私を見た。その目を見つめ返しながら、「ん?」と返事をする。

「今度、映画観にいかないか?」

 彼の口から出てきたのは意外な提案で、私は目をパチクリさせた。

「別に無理強いするつもりはないけど……。どうかな?」
「うん。もちろん良いよ」

 間髪入れずに答えると、彼はホッとした様子を見せた。

「良かった。じゃあ、約束な」
「うん。絶対だよ」

 私は青島くんに小指を差し出す。