「いいえ。フリューゲル。そうではありませんよ。きっと、それがアーラの定めなのでしょうね」
「……定め?」

 司祭様は一体何が言いたいのだろう? 私が何だというのか?

 少しの沈黙の後、再び司祭様が話し出された。

貴方方(あなたがた)の開花は、いつものそれとは少し違ったことをご存知でしたか?」
「はい。司祭様」

 私は、答えながら司祭様の次の言葉を待った。隣でフリューゲルもコクンと頷いている。

「貴方方の開花のとき、(わたくし)は、大樹様(リン・カ・ネーション)のお声を聞いたような気がしたのです」

 司祭様は、気持ちを落ち着けるかのように、深く息を吐き出してから、お話を続けられた。

「『時、来たりしとき、片翼を学ばせよ。時、来たりしとき、片翼を羽ばたかせよ』 これがその時私が聞いたお言葉です」
「それは……」
「私には大樹様のお心までは分かりません。しかし、今日まで、そのお言葉の意味を考えてきました。お声を聞いたときの開花により生まれたNoel(ノエル)は、一人ではなく貴方方お二人でした。お二人は、対となる存在なのではないか。片翼とは、貴方方お二人のうち、どちらかを示しているのではないかと」

 司祭様が話し終えると、フリューゲルがポツリと言葉を零した。

「片翼を学ばせよ……?」

 その後を私が引き継ぐように呟く。

「片翼を羽ばたかせよ……?」

 私たちの開花については知っていた。しかし、司祭様から語られた話は初めて聞くものだった。

 お話を伺いながら、私とフリューゲルはお互いに顔を見合わせる。

「蕾の成長が止まり出したのは、七日ほど前からです。今までにないことですが、これは、大樹様からの啓示ではないかと、私は思うのです。時が来たのです」

「……時が来た?」

 私は話が呑み込めず、ただ司祭様のお言葉を繰り返す。しかし、フリューゲルは私よりも理解できているのか司祭様へ質問をした。

「司祭様は、僕たちのうち、どちらがその片翼だとお考えですか?」
「私は、……アーラではないかと思っています」
「えっ? 私?」
「それは、なぜでしょう?」

 ほとんど話についていけていない私を一人残し、司祭様とフリューゲルの話は続く。

「貴方を含め、Noelが下界を見ることは、ほとんどありません。しかしアーラは、毎日のように下界を見つめています。下界には、アーラを強く惹きつける何かがあるのかもしれないと私は思うのです」
「確かにそうかもしれません」

 フリューゲルは、司祭様のお考えに深く頷くと、そのまま考え込むように黙ってしまった。