私はフリューゲルに見透かされたことに少しだけばつの悪さを感じて、彼からふいっと目を逸らした。

「もう、何でもお見通しって感じで見るのはやめて」
「あはは。ごめんごめん。でも本当にやめたりしないで。僕のためとかじゃなくて、きみには好きなことを伸び伸びとやって、楽しくこれからを過ごして貰いたいんだ」

 フリューゲルの真剣な声に、逸らしていた視線をチラリと彼の方へ戻す。楽しそうな笑みは、いつの間にか真剣な眼差しへと変わっていた。

 私のことを大切に思ってくれている彼の気持ちがとめどなく伝わってきて、私の心は嬉しさに震えた。けれど、それと同時に、こんなにも私のことを大切に思ってくれている自身の片割れのことを、いつかは忘れてしまうのだなと思うと、寂しさと哀しさが込み上げてきて視界が少し霞む。

 もう受け入れたはずでしょうと、自分自身に言い聞かせて唇を少しきつく噛む。目をぎゅっと瞑り、鼻から大きく息を吐き出してから、パチリと目を開けた。

 私は、フリューゲルをしっかりと見つめて、とびきりのイタズラ顔をニッと見せる。

「私が園芸をやめるわけないでしょう! アーラでいるうちは続けるわ。融合が完全に終って白野つばさになっても、きっと私は続ける」

 そんな私の宣言に、フリューゲルもニッと笑い返す。なんだか、金の環と綺麗な羽を持つ天使様には似合わない笑い方だなと思ったら、可笑しくなって、あははと笑い声が口から漏れた。

「何? 突然どうしたの?」

 急に笑い出した私に、フリューゲルはぎょっとしたように目を見開く。その顔がまた面白くて、さらに私は笑い声をあげた。

「あはは。なんでもない。あー、可笑しい」

 いつの間にか目に滲んだ涙を指で拭いながら、私は首を振ると、学校へ向かって駆け出した。

「行こう! フリューゲル。花壇のお手入れをしなくちゃ」
「ちょっと待ってよ。アーラ」

 そう言いながらも、フリューゲルに慌てた様子はない。天使様になっても、彼は走ったりはしない。ゆっくりと自分のペースを守って、私の後をついてくる。

 そういえば、前にもこんな事があったなと思い出す。この世界に来てまだ一年。それなのに、一年前の春のことがもう随分と昔のことのように思われた。

 学校に着くと、私たちはもう一人のココロノカケラの少女が大切にしている花壇へ向かう。このところのポカポカ陽気に誘われるようにして地中から顔を出した小さな葉が、花壇に緑の絨毯を広げ、生い茂っていた。