月日は簡単に散った。私は一つ学年が上がり、佐奈ちゃんとも優香ちゃんとも交友関係が続いている。優香ちゃんに会いに行くたびに増える絵を見せてもらい私は小説を見せた。熟読されている間ドキドキして恥ずかしくてそして少し嬉しかった。いいじゃん、と笑顔を返してくれたのが本当に嬉しくて私は一時硬直してしまうほどだ。
将来について考えなければいけなくなったもののいまだ夢らしい夢はない。それに凡人のままであることに変わりはない。物語の主人公ではないのだから、急に何かができるようになることもきっとない。
桜が降るのを窓から見つめ、ベランダで寝るなんて馬鹿なことはもうしないが外の空気を吸いながら空想に浸るのもまた一興だと思えるほどには大人に近づいた。
「あ、通知だ。」
スマホから通知が鳴る。それは私の書いた文章への反応だった。反応はまだ二桁にも乗らない、でも一つ一つが本当に嬉しい。量じゃない、開いてくれたことが私の綴った文章に触れてくれたことが愛おしくて嬉しくてたまらないのだ。
銀色の指輪は私の指にはまっている。あの経験があの時の私が消えてしまわないように。思い出も夢も全て大切にできるように。
結果、夢だとか大きなものは私にはわからない。でも、私の文章でほんの少しでも測れないほど一瞬であったとしても笑顔になってくれたら小さな私も今の私もきっと良かったって思うから。
ベランダから部屋へ入れば籠った空気が私を包み込む、少しだけ窓を開け机の前に座り執筆に向き直る。
「二人に新作、見せなきゃね。」
凡人で特別になんてなれない私だけれど、文章を綴り続けたい。結果がなくても誰にも見られない閲覧数0だったとしても、自分で嫌になっても誰かに後ろ指刺されても、誰かを笑顔にするために。
甘く濃い沈丁花の香が風によって運ばれ私に届く。香りに乗っかったように鈴の音が確かに聞こえた。