船は清崎島に到着した。
船着き場は真新しく整備されており、無人島とはいえ人の手がしっかりと入っていることに安堵した。
鬱蒼と草木が生い茂っている中、一本の開けた道があり、どうやらそこを進むらしい。
見上げると、茶色い木造のコテージが見えた。そこまでは高低差がある。おそらくここからは坂道だ。
荷下ろしを終え、船が去るのを見送ると、拓真さんが道の入り口まで歩いて行ったので、全員でついて行った。
「これが慰霊碑。小さくてよくわからないけどな」
拓真さんがポンポンと叩いたのは、拓真さんの膝の辺りまでの高さしかない石碑だった。何やら文字が刻まれているがよく読めない。拓真さんに言われなければ確実に見落としていたと思えるくらい、その存在感は小さかった。美咲さんが咎めるように言った。
「もう、無闇に触らないでよ。祟られたらどうするの?」
「平気だって。美咲はこわがりすぎ」
拓真さんを先頭に、道を歩いて行った。途中から傾斜がかかり、膝に負担がきた。楽器を持っているメンバーはさらにしんどいだろう。
五分ほど歩いたところで、道が二股に別れた。一つはこのまま登り続ける道、もう一つは下り坂だ。拓真さんが足を止めて言った。
「あっちを下るとビーチな。さっ、もう少し登るとコテージだ」
額に汗がにじみ、じりじりと肌が焦がされているのを感じた頃。コテージに到着した。
「わっ、すっごい綺麗!」
叫んだのは亜里沙さんだった。確かに綺麗だ。数段の階段を登ると入れるウッドデッキがあり、そこはピカピカに磨かれていた。ウッドデッキの奥が出入り口だ。壁面は丸太。ログハウスというやつ。二階建てで、屋根は赤色に塗られていた。
拓真さんが言った。
「一階がリビングとキッチンとダイニング。二階がそれぞれの部屋な。まずはリビングに行こうか」
拓真さんが鍵を開けた。中は圧巻だった。入ってすぐ置かれてあったのは、大人数が座れる赤いソファとローテーブル。奥にアイランド式のキッチンも見えた。その奥はダイニングテーブル。どれも展示場かと思わされるくらい新しい。
拓真さんが、ファスナーのついたトートバッグを取り出した。
「はい、ここでスマホ回収! 電源を切ってここに入れてくれ。緊急時は返却するし、中も見ないから信用してくれよ」
八つのスマホがトートバッグの中に入った。拓真さんはしっかりとファスナーを閉めた。
「で、部屋割なんだが……俺と美咲は固定電話がある一番手前の部屋な。他は話し合って決めてくれ。どれもツインで、構造はほとんど同じだ」
二階に上がり、まずは二年生から部屋を決めてもらった。部屋は六つ。奥から埋まり、俺と瑛太は拓真さんと美咲さんの隣の部屋になった。
「わぁっ!」
部屋に入るなり、瑛太が手前のベッドにダイブした。
「そうにぃ、ふかふかー!」
「どれどれ……」
俺は奥のベッドに腰をおろした。なるほど、マットレスの沈み具合がちょうどいい。ピンと張られていた白いシーツはとても清潔感があり、無人島なのに一流のホテルに来たかのような錯覚に陥った。
ベッドを確かめたところで、次はクローゼットを開けた。二人分の荷物なら楽に入る大きさだ。備え付けのハンガーが四つほど。下段に小さな引き出しがあり、小物はここに置いておけそうだ。
「そうにぃ、もう自由時間だよね?」
「うん。夕食は六時。今は……三時過ぎだから、たっぷり時間があるよ」
「ボク、この島ぐるっと回りたい!」
「了解。虫よけスプレーしてから行こう」
支度を整えてリビングにおりると、キッチンには美咲さんと蓮さんの姿があった。美咲さんが声をかけてきた。
「二人はどうするの? 海?」
「いえ、俺と瑛太は島を回ります。お二人は?」
「夕飯のカレーを作るね!」
「あっ……すみません、気が回らなくて」
「いいのいいの。わたし、料理好きだから」
蓮さんも口を出した。
「オレも料理は好きだ。大人数だと作りがいがある。颯太くんたちは気にせずに行ってくるといい」
「はい! ところで、拓真さんは?」
その問いには美咲さんが答えた。
「スタジオ行ってくるって。別棟にあるらしいの。そこで機材の調整だっけ、そういうのしたいからってもう行っちゃった」
夕食後はサークルメンバーで音合わせの予定だ。その準備をしてくれるというわけだ。
階段がきしむ音がして、俺はそちらを見上げたのだが……。
「綾音ちゃん!」
白いパーカーを羽織っているが、前のファスナーは開かれていた。そこから覗くのは、大人っぽい黒一色のビキニだ!
「わたし、亜里沙さんと優花さんと一緒にビーチに行ってくるね!」
「う、うん! 俺は瑛太と島を巡るよ!」
ああ、綺麗だ。黒の布地が肌の白さを際立てていた。普段は絶対に見ることのできないお腹、太もも……これじゃ下着とほぼ同じだというのに、水着だからというだけでさらけ出してしまえるなんて。合宿に来て良かった。
亜里沙さんと優花さんも合流し、俺と瑛太はひとまずビーチまでは行ってみることにした。
船着き場は真新しく整備されており、無人島とはいえ人の手がしっかりと入っていることに安堵した。
鬱蒼と草木が生い茂っている中、一本の開けた道があり、どうやらそこを進むらしい。
見上げると、茶色い木造のコテージが見えた。そこまでは高低差がある。おそらくここからは坂道だ。
荷下ろしを終え、船が去るのを見送ると、拓真さんが道の入り口まで歩いて行ったので、全員でついて行った。
「これが慰霊碑。小さくてよくわからないけどな」
拓真さんがポンポンと叩いたのは、拓真さんの膝の辺りまでの高さしかない石碑だった。何やら文字が刻まれているがよく読めない。拓真さんに言われなければ確実に見落としていたと思えるくらい、その存在感は小さかった。美咲さんが咎めるように言った。
「もう、無闇に触らないでよ。祟られたらどうするの?」
「平気だって。美咲はこわがりすぎ」
拓真さんを先頭に、道を歩いて行った。途中から傾斜がかかり、膝に負担がきた。楽器を持っているメンバーはさらにしんどいだろう。
五分ほど歩いたところで、道が二股に別れた。一つはこのまま登り続ける道、もう一つは下り坂だ。拓真さんが足を止めて言った。
「あっちを下るとビーチな。さっ、もう少し登るとコテージだ」
額に汗がにじみ、じりじりと肌が焦がされているのを感じた頃。コテージに到着した。
「わっ、すっごい綺麗!」
叫んだのは亜里沙さんだった。確かに綺麗だ。数段の階段を登ると入れるウッドデッキがあり、そこはピカピカに磨かれていた。ウッドデッキの奥が出入り口だ。壁面は丸太。ログハウスというやつ。二階建てで、屋根は赤色に塗られていた。
拓真さんが言った。
「一階がリビングとキッチンとダイニング。二階がそれぞれの部屋な。まずはリビングに行こうか」
拓真さんが鍵を開けた。中は圧巻だった。入ってすぐ置かれてあったのは、大人数が座れる赤いソファとローテーブル。奥にアイランド式のキッチンも見えた。その奥はダイニングテーブル。どれも展示場かと思わされるくらい新しい。
拓真さんが、ファスナーのついたトートバッグを取り出した。
「はい、ここでスマホ回収! 電源を切ってここに入れてくれ。緊急時は返却するし、中も見ないから信用してくれよ」
八つのスマホがトートバッグの中に入った。拓真さんはしっかりとファスナーを閉めた。
「で、部屋割なんだが……俺と美咲は固定電話がある一番手前の部屋な。他は話し合って決めてくれ。どれもツインで、構造はほとんど同じだ」
二階に上がり、まずは二年生から部屋を決めてもらった。部屋は六つ。奥から埋まり、俺と瑛太は拓真さんと美咲さんの隣の部屋になった。
「わぁっ!」
部屋に入るなり、瑛太が手前のベッドにダイブした。
「そうにぃ、ふかふかー!」
「どれどれ……」
俺は奥のベッドに腰をおろした。なるほど、マットレスの沈み具合がちょうどいい。ピンと張られていた白いシーツはとても清潔感があり、無人島なのに一流のホテルに来たかのような錯覚に陥った。
ベッドを確かめたところで、次はクローゼットを開けた。二人分の荷物なら楽に入る大きさだ。備え付けのハンガーが四つほど。下段に小さな引き出しがあり、小物はここに置いておけそうだ。
「そうにぃ、もう自由時間だよね?」
「うん。夕食は六時。今は……三時過ぎだから、たっぷり時間があるよ」
「ボク、この島ぐるっと回りたい!」
「了解。虫よけスプレーしてから行こう」
支度を整えてリビングにおりると、キッチンには美咲さんと蓮さんの姿があった。美咲さんが声をかけてきた。
「二人はどうするの? 海?」
「いえ、俺と瑛太は島を回ります。お二人は?」
「夕飯のカレーを作るね!」
「あっ……すみません、気が回らなくて」
「いいのいいの。わたし、料理好きだから」
蓮さんも口を出した。
「オレも料理は好きだ。大人数だと作りがいがある。颯太くんたちは気にせずに行ってくるといい」
「はい! ところで、拓真さんは?」
その問いには美咲さんが答えた。
「スタジオ行ってくるって。別棟にあるらしいの。そこで機材の調整だっけ、そういうのしたいからってもう行っちゃった」
夕食後はサークルメンバーで音合わせの予定だ。その準備をしてくれるというわけだ。
階段がきしむ音がして、俺はそちらを見上げたのだが……。
「綾音ちゃん!」
白いパーカーを羽織っているが、前のファスナーは開かれていた。そこから覗くのは、大人っぽい黒一色のビキニだ!
「わたし、亜里沙さんと優花さんと一緒にビーチに行ってくるね!」
「う、うん! 俺は瑛太と島を巡るよ!」
ああ、綺麗だ。黒の布地が肌の白さを際立てていた。普段は絶対に見ることのできないお腹、太もも……これじゃ下着とほぼ同じだというのに、水着だからというだけでさらけ出してしまえるなんて。合宿に来て良かった。
亜里沙さんと優花さんも合流し、俺と瑛太はひとまずビーチまでは行ってみることにした。

