俺の夏は、あっという間に過ぎ去った。
警察の事情聴取。再度、清崎島に行っての実況見分。マスコミの取材も殺到したが、全てはねのけた。
瑛太に負担をかけたくなかったので、島での推理は全て俺一人がしたことにした。それで瑛太も文句を言わなかった。
綾音ちゃんは取り調べには素直に応じているらしく、事件の全容はみるみるうちに世間に明らかになった。使い捨てカメラで撮影していたのも良かったらしい。
しかし、綾音ちゃんの口からは、一言も反省の言葉はないということだ。綾音ちゃんの本当の想いを聞く機会を俺は失った。
もし、拓真さんとのことを、俺に相談してくれるくらい、綾音ちゃんと打ち解けていれば。信用してもらっていれば。こんな事件は起こらなかったのかもしれない。しかし、全ては遅かったのだ。
そして、サークル「ハーフノート」についてだ。
予想通り、まずは活動停止処分を下された。ボックスは封鎖され、集まるとすれば非公式でコソコソとしなければならなかった。サークルを離れた人も何人かいた。
秋の文化祭は当然出ることができなかった。歯がゆい俺は、文化祭期間中は大学に行かなかった。
そんな俺を励まし続けてくれたのが、瑛太だった。二人でカラオケに行き、フリータイムで歌いまくった。
冬がきて、俺と蓮さん、亜里沙さんの三人でカフェに集まり、何度も何度も話し合いを続けた。
大学側は、活動再開の目処は立てることができない、の一点張り。今回の事件は痴情のもつれということで、マスコミに面白おかしく騒ぎ立てられ、大学名もサークル名も、個人名までもがネットに流出したせいだった。
そして、蓮さんが出した結論は、「ハーフノート」を解散して新しく軽音サークルを作る、というものだった。苦渋の決断だ。
新たな軽音サークルの名称は「リノート」。蓮さんが命名した。
雪の中で眠る木の芽のように。俺たちは密かに準備を整えた。
迎えた春。「リノート」の新入生歓迎ライブで、俺はマイクスタンドの前に立ち、拓真さんから受け継いだベースを構えていた。続々とライブハウスに集まった観客の前で、俺は大声を張り上げた。
「皆さん、初めまして! 軽音サークル、リノートです! 今夜はぜひ楽しんでください!」
ギター、蓮さん。ドラム、亜里沙さん。そして俺は、ベースボーカル。この日のために、俺は文字通り血の滲むような練習を重ねた。指先はしっかりと硬くなっていた。
他にバンドメンバーを追加することは考えられなかった。あの場にいた三人だけで音色を奏でることこそ、意味があると思ったから。
蓮さんのギターがうなり、曲が始まる。俺は亜里沙さんのドラムに合わせ、ベースを弾き、歌声を響かせる!
俺たちの演奏が終わり、控室に行くと、瑛太が待っていた。
「そうにぃ、お疲れさま! 凄くカッコよかった!」
「だろ? 今回は自信を持って歌えた。拓真さんのベースのおかげだよ」
「生のライブってこんなに凄いんだね。ボクも楽器をしてみたくなっちゃった」
蓮さんも、亜里沙さんも、この再出発に懸けていた。二人の表情は明るく、雨上がりの虹がかかったようだった。俺はペットボトルの水を一気に飲み干し、口をぬぐった。
「そうにぃ……変わったね。大人っぽくなった」
「これで終わりじゃないからな。始まりだよ」
一度は壊れてしまった絆。でも、再び取り戻そう。音楽という礎がある限り、俺たちはやり直せる。そして、新たな出会いもあるだろう。どんな音がこれから加わるのか、楽しみだ。
了
警察の事情聴取。再度、清崎島に行っての実況見分。マスコミの取材も殺到したが、全てはねのけた。
瑛太に負担をかけたくなかったので、島での推理は全て俺一人がしたことにした。それで瑛太も文句を言わなかった。
綾音ちゃんは取り調べには素直に応じているらしく、事件の全容はみるみるうちに世間に明らかになった。使い捨てカメラで撮影していたのも良かったらしい。
しかし、綾音ちゃんの口からは、一言も反省の言葉はないということだ。綾音ちゃんの本当の想いを聞く機会を俺は失った。
もし、拓真さんとのことを、俺に相談してくれるくらい、綾音ちゃんと打ち解けていれば。信用してもらっていれば。こんな事件は起こらなかったのかもしれない。しかし、全ては遅かったのだ。
そして、サークル「ハーフノート」についてだ。
予想通り、まずは活動停止処分を下された。ボックスは封鎖され、集まるとすれば非公式でコソコソとしなければならなかった。サークルを離れた人も何人かいた。
秋の文化祭は当然出ることができなかった。歯がゆい俺は、文化祭期間中は大学に行かなかった。
そんな俺を励まし続けてくれたのが、瑛太だった。二人でカラオケに行き、フリータイムで歌いまくった。
冬がきて、俺と蓮さん、亜里沙さんの三人でカフェに集まり、何度も何度も話し合いを続けた。
大学側は、活動再開の目処は立てることができない、の一点張り。今回の事件は痴情のもつれということで、マスコミに面白おかしく騒ぎ立てられ、大学名もサークル名も、個人名までもがネットに流出したせいだった。
そして、蓮さんが出した結論は、「ハーフノート」を解散して新しく軽音サークルを作る、というものだった。苦渋の決断だ。
新たな軽音サークルの名称は「リノート」。蓮さんが命名した。
雪の中で眠る木の芽のように。俺たちは密かに準備を整えた。
迎えた春。「リノート」の新入生歓迎ライブで、俺はマイクスタンドの前に立ち、拓真さんから受け継いだベースを構えていた。続々とライブハウスに集まった観客の前で、俺は大声を張り上げた。
「皆さん、初めまして! 軽音サークル、リノートです! 今夜はぜひ楽しんでください!」
ギター、蓮さん。ドラム、亜里沙さん。そして俺は、ベースボーカル。この日のために、俺は文字通り血の滲むような練習を重ねた。指先はしっかりと硬くなっていた。
他にバンドメンバーを追加することは考えられなかった。あの場にいた三人だけで音色を奏でることこそ、意味があると思ったから。
蓮さんのギターがうなり、曲が始まる。俺は亜里沙さんのドラムに合わせ、ベースを弾き、歌声を響かせる!
俺たちの演奏が終わり、控室に行くと、瑛太が待っていた。
「そうにぃ、お疲れさま! 凄くカッコよかった!」
「だろ? 今回は自信を持って歌えた。拓真さんのベースのおかげだよ」
「生のライブってこんなに凄いんだね。ボクも楽器をしてみたくなっちゃった」
蓮さんも、亜里沙さんも、この再出発に懸けていた。二人の表情は明るく、雨上がりの虹がかかったようだった。俺はペットボトルの水を一気に飲み干し、口をぬぐった。
「そうにぃ……変わったね。大人っぽくなった」
「これで終わりじゃないからな。始まりだよ」
一度は壊れてしまった絆。でも、再び取り戻そう。音楽という礎がある限り、俺たちはやり直せる。そして、新たな出会いもあるだろう。どんな音がこれから加わるのか、楽しみだ。
了

