「えっ、待って、なんでわたし? 一人だけだった時間があるから……?」
俺は首を横に振った。
「それは決め手じゃない。今から説明するね。拓真さんは、二台目のスマホを持っていた。これです」
俺はスマホをポケットから取り出し、皆によく見えるようにかざした。
「ここには証拠となるやり取りが残されていました。順を追って、拓真さんと綾音ちゃんの動きを話しますね」
綾音ちゃんは下唇を噛み、恨めしげに俺を見上げていた。口を挟ませてはならない。俺は一気にまくし立てた。
「拓真さんと綾音ちゃんは、二台目のスマホを持っていて、島に来てからも連絡を取り合っていた。読み上げますね。昨日の三時過ぎ……綾音ちゃんから、こうあります。水着を見せたいから、慰霊碑の方を向いて待っていて、と」
誰かが息を飲む音が聞こえた。俺は続けた。
「拓真さんは、スタジオで作業をした後、慰霊碑でタバコを吸って綾音ちゃんを待っていました。そして、綾音ちゃんはわざと怪我をしてコテージに戻り、スマホを盗んで電話線を切断。慰霊碑に行き、背後から拓真さんを刺した。返り血がついたはずです。けど、綾音ちゃんは水着のままだったから、海に入って流した。凶器もおそらく、海に捨てた。ねえ、綾音ちゃん。君は、拓真さんと……身体の関係があったんだね。拓真さんの水着のポケットにコンドームがあったのも、つまりはそういう誘いだった」
俺は二台目のスマホをスワイプした。
「綾音ちゃんだけじゃない。拓真さんは、美咲さんという本命の彼女の他に、何人もの女の子に手を付けていた。その全てはこのスマホの中に入っています。綾音ちゃんは、それが許せなかったんだね?」
綾音ちゃんは、ソファにもたれ、足を組んだ。
「……そのスマホ、どこで見つけたの?」
「スタジオの、拓真さんのベースのケースの中だよ」
「やっぱりスタジオだったかぁ。蓮さんに行動制限されちゃったから、スマホどうしようって思ってたんだよね。そっか。先に見つけられちゃったか」
「認めるんだね?」
「うん。拓真さんを殺したのは、わたし」
美咲さんが立ち上がり、綾音ちゃんに掴みかかろうとした。すんでのところで蓮さんが羽交い締めにした。
「このクソ女! よくも拓真を!」
さすがの蓮さんも、この展開には焦ったようだ。
「美咲さん、美咲さん、落ち着いてください!」
挑発するように、綾音ちゃんが口角を上げた。
「気付かなかったんですかぁ? まあ、美咲さんの束縛がキツいから、拓真さんは二台目のスマホ持ってたんですけどね。いいよ、颯太くん。全部話す。わたしはね、拓真さんに処女をあげたんだよ」
そこから先は、聞くのがおそろしかった。俺の大好きだった綾音ちゃん。将来のことまで妄想を繰り広げ、付き合いたいと願った女の子。いや、しかし。だからこそ。俺は聞かねばならない。全てのことを。
「サークルに入ってすぐ、わたしは拓真さんに誘われた……あんなに優しくしてくれる男の人、初めてだった。だから捧げたの。けどね、その後に、美咲さんの存在を知って。わたしは都合のいいセフレにされたんだなってわかって、悔しくて、悔しくて! 音楽があれば、繋がれると思ってたのに……拓真さんは最初から、わたしの音楽じゃなくて身体が目当てだった!」
美咲さんが落ち着いたようで、蓮さんが拘束を解いて座らせた。美咲さんはわなわなと震えていた。
「ハーフノートに入らなければ、わたしは傷付かなかった。ちゃんと幸せな恋愛ができた。だから、わたしはこのサークル自体を恨んだの。なくなっちゃえばいいのに、って」
推測していた動機は、やはり合っていたのだ。そして、ここからは、瑛太の推理だが、さも俺が考えたかのように話した。
「綾音ちゃんの一番大きな目的は、ハーフノートを潰すこと。そうだね? だから、自分が犯人であるとバレるところまでが計画の内だった。二台目のスマホを、どんな手を使ってでも回収しなかった詰めの甘さがそうだ。君は警察に捕まってもよかったんだ」
「……その通りだよ。あはっ、楽しみだね。今回の事件はどんな記事になるのかな?」
低い声で、蓮さんが凄んだ。
「ハーフノートは存続させる。綾音ちゃんの思惑通りにはいかない。オレが全力を尽くす。綾音ちゃんは確かに被害者なのかもしれないが、それで一人の命と皆の居場所を奪っていい言い訳にはならない。颯太くん、警察に連絡は?」
「まだです。終わってからしようと思っていました」
「なら、頼む。綾音ちゃんは自分の部屋に入ってもらおうか。オレが見張る」
すっと優花さんが手を挙げた。
「それなら、私も一緒に。私は比較的中立の立場です。それに、同じ女性として……綾音ちゃんの話も聞いてあげられます。いいよね、綾音ちゃん?」
駄々をこねた後の子供のように、こくんと綾音ちゃんが頷いた。綾音ちゃんは優花さんに手を引かれ、階段を上っていき、その後を蓮さんが追った。
これで事件は解決した。しかし、本当の戦いはここからだ。ハーフノートを守る。そのためには、当事者の一人である俺が、積極的に動く必要がある。
固い決意を胸に、俺は警察へと連絡した。
俺は首を横に振った。
「それは決め手じゃない。今から説明するね。拓真さんは、二台目のスマホを持っていた。これです」
俺はスマホをポケットから取り出し、皆によく見えるようにかざした。
「ここには証拠となるやり取りが残されていました。順を追って、拓真さんと綾音ちゃんの動きを話しますね」
綾音ちゃんは下唇を噛み、恨めしげに俺を見上げていた。口を挟ませてはならない。俺は一気にまくし立てた。
「拓真さんと綾音ちゃんは、二台目のスマホを持っていて、島に来てからも連絡を取り合っていた。読み上げますね。昨日の三時過ぎ……綾音ちゃんから、こうあります。水着を見せたいから、慰霊碑の方を向いて待っていて、と」
誰かが息を飲む音が聞こえた。俺は続けた。
「拓真さんは、スタジオで作業をした後、慰霊碑でタバコを吸って綾音ちゃんを待っていました。そして、綾音ちゃんはわざと怪我をしてコテージに戻り、スマホを盗んで電話線を切断。慰霊碑に行き、背後から拓真さんを刺した。返り血がついたはずです。けど、綾音ちゃんは水着のままだったから、海に入って流した。凶器もおそらく、海に捨てた。ねえ、綾音ちゃん。君は、拓真さんと……身体の関係があったんだね。拓真さんの水着のポケットにコンドームがあったのも、つまりはそういう誘いだった」
俺は二台目のスマホをスワイプした。
「綾音ちゃんだけじゃない。拓真さんは、美咲さんという本命の彼女の他に、何人もの女の子に手を付けていた。その全てはこのスマホの中に入っています。綾音ちゃんは、それが許せなかったんだね?」
綾音ちゃんは、ソファにもたれ、足を組んだ。
「……そのスマホ、どこで見つけたの?」
「スタジオの、拓真さんのベースのケースの中だよ」
「やっぱりスタジオだったかぁ。蓮さんに行動制限されちゃったから、スマホどうしようって思ってたんだよね。そっか。先に見つけられちゃったか」
「認めるんだね?」
「うん。拓真さんを殺したのは、わたし」
美咲さんが立ち上がり、綾音ちゃんに掴みかかろうとした。すんでのところで蓮さんが羽交い締めにした。
「このクソ女! よくも拓真を!」
さすがの蓮さんも、この展開には焦ったようだ。
「美咲さん、美咲さん、落ち着いてください!」
挑発するように、綾音ちゃんが口角を上げた。
「気付かなかったんですかぁ? まあ、美咲さんの束縛がキツいから、拓真さんは二台目のスマホ持ってたんですけどね。いいよ、颯太くん。全部話す。わたしはね、拓真さんに処女をあげたんだよ」
そこから先は、聞くのがおそろしかった。俺の大好きだった綾音ちゃん。将来のことまで妄想を繰り広げ、付き合いたいと願った女の子。いや、しかし。だからこそ。俺は聞かねばならない。全てのことを。
「サークルに入ってすぐ、わたしは拓真さんに誘われた……あんなに優しくしてくれる男の人、初めてだった。だから捧げたの。けどね、その後に、美咲さんの存在を知って。わたしは都合のいいセフレにされたんだなってわかって、悔しくて、悔しくて! 音楽があれば、繋がれると思ってたのに……拓真さんは最初から、わたしの音楽じゃなくて身体が目当てだった!」
美咲さんが落ち着いたようで、蓮さんが拘束を解いて座らせた。美咲さんはわなわなと震えていた。
「ハーフノートに入らなければ、わたしは傷付かなかった。ちゃんと幸せな恋愛ができた。だから、わたしはこのサークル自体を恨んだの。なくなっちゃえばいいのに、って」
推測していた動機は、やはり合っていたのだ。そして、ここからは、瑛太の推理だが、さも俺が考えたかのように話した。
「綾音ちゃんの一番大きな目的は、ハーフノートを潰すこと。そうだね? だから、自分が犯人であるとバレるところまでが計画の内だった。二台目のスマホを、どんな手を使ってでも回収しなかった詰めの甘さがそうだ。君は警察に捕まってもよかったんだ」
「……その通りだよ。あはっ、楽しみだね。今回の事件はどんな記事になるのかな?」
低い声で、蓮さんが凄んだ。
「ハーフノートは存続させる。綾音ちゃんの思惑通りにはいかない。オレが全力を尽くす。綾音ちゃんは確かに被害者なのかもしれないが、それで一人の命と皆の居場所を奪っていい言い訳にはならない。颯太くん、警察に連絡は?」
「まだです。終わってからしようと思っていました」
「なら、頼む。綾音ちゃんは自分の部屋に入ってもらおうか。オレが見張る」
すっと優花さんが手を挙げた。
「それなら、私も一緒に。私は比較的中立の立場です。それに、同じ女性として……綾音ちゃんの話も聞いてあげられます。いいよね、綾音ちゃん?」
駄々をこねた後の子供のように、こくんと綾音ちゃんが頷いた。綾音ちゃんは優花さんに手を引かれ、階段を上っていき、その後を蓮さんが追った。
これで事件は解決した。しかし、本当の戦いはここからだ。ハーフノートを守る。そのためには、当事者の一人である俺が、積極的に動く必要がある。
固い決意を胸に、俺は警察へと連絡した。

