透明なトライアングル

 「詩歌と会った時は、響が生きてた!って思って本気で驚いたけど、、、。話すとやっぱり響が話していた詩歌だなって思ったよ」

「聞いてた通りの詩歌だったと、、、」

伊織は、おかしそうに笑い出した。

 「いや?だいぶ話しより落ち着いてて、大人しいなって思ったけど。そのうち、詩歌が家の事や学校の事で苦しんでる姿を見て、なんか悔しくなってきて」

「悔しい?伊織が?」

「そう。だってそうだろ?親父が自分の命を差し出してまで助けた詩歌が、すごく辛い人生を生きてて、無理に自分を捨てて響になろうとしてて、親父は詩歌にそんな思いをして欲しくて、助けたわけじゃねーよって」

 胸が痛かった。伊織のお父さんは、まだ小さかった私の命を何とか未来に繋げたくて、私を助けてくれたんだ。決して自分を捨てて違う人間になる事なんて望んでなかったはずだ。

 「もっと、幸せで明るい未来を生きていてほしいって思ったはずだろ?
 だから、今度は俺が詩歌を助けたいって。親父が詩歌を守ったように、今度は俺が詩歌を守りたいって思ったんだよ、、、」

 気づかないうちに涙が溢れていた。ずっと孤独で一人ぼっちで生きていると思っていた。
辛くて、いつまでも明けない夜のような心細さを感じていた。

 けれど、私は色んな人に知らない間に守られて生きていた、、、。

 響は、死んでからも私の事を守ろうとしていてくれたんだ。

 「俺は、きっと観覧車の中で、響から詩歌の話しを聞いてた時から、詩歌の事が気になってた。だから、高校が同じだって知って内心めちゃくちゃ喜んでた。もう、その時から詩歌の事が好きだったのかもな、、、。
 俺の話しは以上だけど。詩歌の返事は?」

「返事?」私はまだ溢れてくる涙を拭いながら言った。

 「はぁ?俺の告白の返事!まだしてないけど?」

そういえばそんな話しすっかり忘れていた。

 「返事かぁ。どうしよう。私、こういうのした事ないからよくわからないんだよね?」

「もしかして、詩歌が好きな人って、さっき一緒にバスケしてたやつ?背が高くてシュッとして、イケメンで、、、あいつの事言ってた?」

「違うよ、あれは好きな人聞かれて、まさか伊織が好きとは言えなくて誤魔化したんだよ」

伊織が私の顔を見てにやにやしてきた。

 「もう一回言ってみ?」

「伊織が好きとは言えなくて、、、」

「やっぱり俺の事好きじゃん!」

伊織が意地悪そうに笑うので、私は思わず睨みつけた。
 本当にむかつくけれど、私の初恋は伊織で、こんな青春みたいな幸せな時間を過ごせている事が嬉しかった。
 
 いつか、恥ずかしがらずに伊織に伝えられるのだろうか。

 伊織の事が"大好き"だと、、、。


 
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夏休みに入って、私と伊織は観覧車に来ていた。係員のおじいさんが、私達の姿を見るとにっこり笑った。

 「久しぶりだね。仲直りしたんだ」

そう言って観覧車の扉を閉めたので、私と伊織は顔を見合わせた。

 「あのおじいさん、響と詩歌が同一人物だと思ってんだよ。だから初めて詩歌とここで会った時も、無理矢理俺達を観覧車に押し込めたんだよ。ほら、響と来てたの覚えてて、いきなり来なくなったから、喧嘩でもしたと思ってたんじゃないの?」

「成る程ねぇ、、、そういう訳かぁ」

私はあれから、バスケ部に入部してアンナや小池さん達と一緒にバスケをしていた。
私と伊織が付き合って、まだ悪口を言う人はいたが、私はそんなに気にしていなかった。

 母の具合は、よくなったり悪くなったりを繰り返してはいたが、今の所落ち着いた日々を過ごしていた。

 私はなくしていた青春を取り戻すかのように、充実した生活を送っていた。

 「伊織!ウミネコ島見えたよ」

海の中にぽっかり浮かぶ島に、伊織のお父さんがいる。私達は、目を閉じて手を合わせた。

 "ありがとうございます。伊織のお父さんが救ってくれたこの命、絶対に無駄にはしません"

私が目を開けると、伊織も目を開けて私を抱き寄せた。

 この先、どんなにつまづいても前を向いて進んで行こう。その先にきっと響が待っていてくれるから─────、、、。




 「伊織、手出して?」私は伊織の手をぎゅっと握った。

 私が手を離すと、伊織が手の平を見て笑った。

伊織の手の平には"ダイスキ"の文字が移っていた、、、。