けれど思い返してみると、母は響のフルートを聞くのが大好きだった。吹奏楽部のコンクールには私と一緒に聞きに行っては感動していた。

 「考えておくね」私はそれだけ言って、夕飯の魚に手をつけた。

 私は自分の部屋に戻ると、クローゼットを開けて荷物を探した。私と響は一つの部屋をニ人で使っていて、響の荷物は今もそのままになっていた。クローゼットの中からフルートを取り出すと、私は静かに開けてみた。
 練習をすれば私も響のようにフルートが吹けるようになるのだろうか?
あのお転婆だった私が楽器を弾くなんて、響が見たら一番驚くだろう。私はまたクローゼットの棚を開けて楽譜を探した。
 
 私は響の書類や冊子の中を探していると、足元に小さなスケジュール帳のような物が落ちた事に気がついた。
淡い紫色の表紙のスケジュール帳に、私は見覚えがあった。

 『詩歌!ちょっと何のぞいてんの?』

『何?のぞいてないけど、過剰に反応してるその感じが怪しくない?何書いてるわけ?日記?』

 『そんなんじゃないって、ただのスケジュール帳!』

『へぇ〜随分細かい字でぴっしり書いてるじゃん?そんなに予定埋まってるんだ』

『だから見ないでってば!詩歌本当に悪趣味!』

 あれは、中学一年の夏休みだったろうか?響が私に見つからないように、熱心に何か書き込んでいた。私は響に悪いような気がしたが、興味の方が勝ってしまい、少し緊張しながらそのスケジュール帳を開いた。

 スケジュール帳を開いた瞬間、ひらひらと何か、紙のような物が落ちてきた。
私は慌ててそれを拾いあげて見てみると、隣町にある、小さな遊園地の観覧車の回数券だった。

 どうして、こんなに沢山回数券を買ったのだろうか?

 私はすぐに疑問に思った。
隣り町の遊園地は、公園の一角に作られた小さな遊園地で、私と響も小さい頃に行った記憶があった。思い出して見ると、確かにそこに大きくはないが、観覧車があったはずだ。けれど、この年齢で行くには少し、恥ずかしくなるような小さい子供向けの遊園地で、どうして響がこんなに沢山チケットを持っているのか不思議に思った。


 スケジュール帳を開いてみると、毎週水曜日、ニ週間に一回くらいの間隔で『観覧車』と書き込まれていた。そして、観覧車の横には数字で"1000"とか"2000"とか書かれていた。