透明なトライアングル

 放課後、私はまた図書室で校内新聞の記事を書いていた。この間の記事はどうやら面白みにかけると没にされてしまい、また一から練り直しだった。伊織は、私と旅行に行ってバイトを休んでしまったので、今日はバイトに遅れられないと言って、先に帰っていった。

 私が一人で、観光名所の本や歴史の本を読んで考えていると、そこへ小池さんが図書室に入ってきた。

 私達は目が合うと、何ともいえない空気に包まれた。私が傷をつけた小池さんの顔の傷痕はだいぶ薄くなっていて、私は少しだけほっとしていた。もしあのまま傷が残ってしまったら、それこそ罪悪感が酷かっただろう。

 「この間は、ごめんなさい、、、」

まさか小池さんに謝られるとは思っていなかったので、私はかなり驚いていた。

 「私こそ、顔傷つけちゃって、、、ごめんなさい」

私達は何故か謝罪し合うと黙ってしまった。
気まずい空気が静かな図書室に漂っていて、今すぐこの空間から飛び出したい気持ちになっていた。

 「ずっと羨ましくて、一城さんが」

この気まずい空気を打ち破って、先に話し出したのは、小池さんだった。

 「なんで?」

「私、ずっと伊織が好きだったんだよね。幼稚園から」

「すごい」

私は思わず声をあげてしまった。小池さんがそんなに長い間伊織を思い続けているとは知らなかった。

 「今ちょっとキモいって思った?」

「思ってないよ。一途だなぁって思ったけど」

「そういう所!そういう所がムカつく!
自分は恋愛とか興味ないですよーみたいな、その雰囲気」

私はいきなりディスられて、少しイライラしてきた。

 「だって本当なんだもん。好きな人とかいなかったし、興味ないっていうか、他の事で手がいっぱいで、そういう青春っぽい事はしてこなかったから」

私が本当の事で弁明すると、小池さんは少し同情の色が見える顔で私を見つめた。

 「お母さんが病気だから?」

「うん。あの日見たでしょ?あんな感じだから、家の事でいっぱいいっぱいなの」

 「私のお母さんも見たでしょ?」

小池さんがそんな事をいってくるので、少し考えた。綺麗なスーツ着たバリバリに仕事ができそうな、かっこいいお母さんだった。

 「みたよ?それが?」

「凄い剣幕で乗り込んできたでしょ?まだどっちが悪いかもわかってなかったのに。一方的に責めて。あれ、モンペだよ」

モンペ、、、モンスターペアレントか!

「そうなの?でも、小池さん顔に傷があったし、怒っても仕方ないんじゃない?」

「こんな浅い引っ掻き傷で?昔からそうなんだよ。同級生からも散々『お前の親モンペだよなあ』っていじられてた。だから、学校にきて欲しくなかったんだよね」

「そうだったんだ。ごめん。何か自分の親のインパクトが強くてあんまり覚えてないんだよ」

あの時、私は母をとにかく宥めたくて必死だった。だから、小池さんのお母さんはよく見ていなかった。

 「一人でお母さんを宥めてる一城さんを見て、凄いなぁって思った。皆んな注目して見てるのに、堂々と歩いていって。そりゃ他の女子とは違うよねって思った」