透明なトライアングル

 駅のロータリーに着くと、伊織が既にきていた。私に気がつくと、伊織は私に向かって手を振った。

 「ごめん!待った?」

「いや、大丈夫。母親に見つからなかった?」

「ばっちり寝てたから大丈夫!」

 バスのチケットは伊織が手配をしてくれていた。誰もいない駅のロータリーに、大型のバスが明かりを灯して入ってきた。
 私はぎゅっと唇を噛むと、眩しい光に目を細めた。

 「なに?詩歌緊張してるの?」

伊織が私を茶化すように言ってきた。

 「してるよ。無断外泊なんて初めてだよ。伊織は緊張してないの?」

「いや?全然?」

伊織はそう言いながら、大きな深呼吸をしていたので私は笑った。

 「嘘じゃん!伊織も緊張してるんじゃん!凄く緊張してるけど、でも凄く楽しみ!」

私達はニ人で深夜のバスに飛び乗った。
安い四列シートのバスだったが、私達はバスが発車して、夜の町の中のポツポツと灯る明かり通り過ぎて、高速に乗るとニ人で顔を見合わせて「凄い〜」と喜んだ。
 
 深夜バスで大きな声を出せなかったが、ニ人で通り過ぎる高速道路の看板を見ながら小声でおしゃべりをした。
 こんなにどきどきした体験は、後にも先にもないかもしれない。私達ニ人にとったら、深夜バスに乗って山梨へ行く事は大冒険でしかなかった。

 しかし、私は連日の寝不足が祟ってすぐに眠くなって、深い夢へと落ちていった。私達は身を寄せ合いながら、いつの間にかお互いを庇うように眠りについた。

 こんなにぐっすり安心して眠れたのは久しぶりだった。狭いバスで身体は痛いはずなのに、私は完璧に熟睡していた。
 そして眩しい太陽の光で目が覚めると、私の肩に頭をのせて、気持ち良さそうに眠っている伊織の顔がすぐ側にあって、私は少しどきっとした。
 伊織の長いまつ毛が、肌に影を落として綺麗な鼻筋が伸びていた。皆んながイケメンと言って騒ぐ伊織は、確かに寝顔も綺麗な顔をしていた。

 私がしばらく伊織の寝顔を見ていると、伊織が「ん〜、、、」と小さく伸びをして目を覚ましたので、私は慌てて目を逸らした。

 「詩歌、俺の寝顔見てたっしょ?」

図星だったが、伊織がにやにやして聞いてくるので、私は窓の外に目をやって「見てないし!」
と言い放った。

 「イケメンだなぁ〜って惚れ惚れとしてたんだろ?素直になれよ」

「何なの、あんたは!本当に自分の容姿に自信があるよね?」

「そりゃそうだろ。こんなイケメンだし?」

私が睨みつけると、伊織が窓の外を見て指差した。そこには、沢山乱立されたビル軍が並んで一斉に朝陽を浴びていた。

 「東京だぁ〜!!!」

 私達は田舎者丸出しで東京らしい都会の風景に喜んでいた。