透明なトライアングル

 家に帰ると、須田さんが夕飯を作って待っていてくれた。母はここ最近テンションが高く、私は少し心配していた。

 「お帰りなさい。お母さん今お風呂へ入っちゃってるわ」

「こんな時間に?」

まだ夕方の四時だった。こんな時間にお風呂に入っているなんて珍しかった。須田さんは、少し小声になって私に話しかけた。

 「実はさっき、お昼寝をしていて目が覚めた途端に海岸まで走って行って、海に入っていっちゃったの、、、」

えっ───、、、?

 何それ、、、。話しを聞いただけだと、かなりびっくりするような状況だった。

 「私もびっくりして、慌てて止めにはいったんだけど、凄い勢いで走っていっちゃってね。
 『娘がおぼれてるから早く助けてって』
ずっと必死に叫びながら海に入っていっちゃってね、、、」

見に覚えがあったのは、私が小さい時に溺れたという話しだった。
 母は昔の夢を見ていて、現実とごちゃまぜになってしまったのだろうか。
 それにしても、やっぱり母の様子がいつもよりおかしいのは事実だった。躁の状態が続いていて、行動的になっていたので何をするかわからなくて怖かった。

 「詩歌ちゃん。予約の日はまだ先だけど、病院へ連れていって、薬変えてもらう?詩歌ちゃんもその方が安心でしょ?」

須田さんの言う通りだった。その証拠に私の心臓は怖くてバクバクと不吉な音を立てていた。

 「一番早く、病院の予約を取れる日に取っちゃうから、私が連れていくね。心配するなと言っても無理だろうけど、あんまり考え過ぎないでね。詩歌ちゃんが参っちゃうから」

須田さんはそう言うが、私は不安でいっぱいだった。私が寝ている間に母が海へ出て行ってしまったら、私は気づく事が出来るのだろうか?
考えただけで怖かった。

 須田さんが帰ったあと、母がお風呂から出てきて、やはりいつもよりテンションが高かった。テンションが低過ぎて寝たきりでも不安だが、テンションが高過ぎても不安になるんだから、本当にやっかいな病気だと思う。

 私は母と、須田さんが作ってくれた料理を温め直して食べた。今日の夕飯はビーフシチューだった。母は食事中に私に饒舌に話しかけてきた。

 「響、部活は始まったの?そろそろ定期演奏会の時期じゃない?お母さん絶対に見にいくからね」

「お母さん、前にも言ったよ。吹奏楽部には入らないって、、、」

私の言葉に母が怒り出してしまった。

 「どうして?あんなに吹奏楽部でフルートを吹くのが好きだったじゃない?お母さん、あなたのフルートが聞けるから毎日頑張ってたのよ?絶対に続けてちょうだい!」