透明なトライアングル

 「この辺りの観光名所の歴史かぁ、、、」

私と伊織は、ニ人で図書室にいながら次回の校内新聞の記事について考えていた。
 一ヶ月に一回出している校内新聞は、学校内の部活のニュースや、先生の面白い記事や、行事について取り上げていた。
 次号は、この辺りの歴史を深掘りしていく回だった。

 「なんで今更、生徒に向けて観光名所の記事なんか書くんだよ?大体こんな田舎の観光名所なんて皆んな大概知ってるだろ?」

  伊織が一人でぶつぶつ文句を言っていたが、今日の伊織はいつもより元気がなかった。テンションもいつもより微かに低かったし、こんな愚痴もいつもより少しだけ多い気がしていた。

 図書室の椅子に座りながら、頭を掻いて記事の内容を考えている伊織を見て、私は軽くシャーペンで伊織の頭をつついた。

 「なんだよ?」

「はい。これあげる」

私は伊織に、チョコを差し出した。
 
 「突然なんだよ?」

「今日、元気ないから。疲れてる?」

「えっ?」伊織は図星だったのか、少し驚いた顔をして、私の差し出したチョコを受け取って、手の平のチョコを眺めていた。

 「俺、今日普通にしてたつもりだったけど」

どうやら伊織は、元気な演技を完璧に演じていたみたいだけど、私は普段から母の顔色を伺ってばかりいるせいか、人のちょっとした気分の変化に敏感になっていた。

 「何があったの?愚痴は吐き合う約束でしょ?」

伊織は自分が言い出した事を、思い出したようで、少しずつ私に元気のない理由を話しだした。

 「あいつ、また新しい男が出来たみたいで、俺が貯めてた生活費、勝手に使いやがった」

伊織はそう言って、悔しそうに俯いた。伊織は学校が終わってからほぼ毎日バイトをしていた。
 バイト代の全てが生活費にまわっていて、伊織のお母さんは、いつもお金のない男の人と付き合っては、生活費を出してあげたり、酷い時は借金の肩代わりまでしてしまうという話しだった。

 「それはきついね。伊織がこんなに毎日働いて貯めたお金なのに、、、」

「働いても、働いても、あいつがいる限り一生俺はこんな生活だよ。やんなるよな、、、本当に、、、いつになったら抜け出せるんだろ」

そう呟く伊織の顔は凄く疲れた顔をしていて、私は心配になってしまった。けれど、私が伊織に出来る事は、話しを聞くか、お弁当を作るくらいしかなかった。

 私達の問題の、根本的な解決方法なんて、この世の中にほぼないと思われるくらいに思い当たらなかった。
 解決方法がないからこそ、伊織の感じる絶望感や歯痒さが私にはよくわかった。