父と母は、私達が小学三年生になる頃に離婚した。離婚原因はよくわからないが、父に別に好きな人ができたようだった。
 離婚する前から、ニ人は激しい喧嘩を繰り広げていて、私達姉妹は夜中にニ人の怒鳴り声が聞こえると、一緒に布団にくるまって嵐が過ぎるのをひたすら待った。

 父は離婚してからも私達に会いにきていたが、そのうちに新しい奥さんに子供が出来ると、ぱたりと私達に会いにはこなくなった。
 子供も代わりができれば用済みなんだろうか?離婚した相手の子より、今の愛する奥さんとの子の方が可愛いのは当たり前だと思う。
 どうやら父はそのうち転勤が決まり、遠い県外へ引っ越したらしく、私達三人とは本当に疎遠となった。

 母は元々神経質で、心配症な一面があった。それは少し病的で、不安だからと言って父を縛りつけるような所もあったし、それが嫌で父は別の人の所へ行ってしまったのも理解出来る。
 そんな母は、父と離婚してから余計に精神的に不安定になっていた。一応パートには出ていたが寝込む事も多く、私達の生活費は父からの養育費と、母の亡くなった両親から譲り受けた纏まった額の遺産で賄われていた。

 父がこの家を出て行き、母の心の拠り所は響になった。私は時々問題を起こして母に心配をかけたが、そんな時は響が母を安心させて、時には母の夫の役割をこなした。側で見ていても、響の母への対応は完璧だった。
私には到底真似できないと思っていたし、この三人だけの家族は、響という存在で何とか持ち堪えていた家族だった───

 「詩歌、起きてる?」

 電気を消してもう寝る前の薄暗い部屋の、二段ベッドの上から響が私に声をかけてきた。

「起きてるよ。どうしたの?」

「私、詩歌と双子で本当によかった」

「何?突然。そんな事言っても何も奢ったりしないよ?」

「違うって。本当にそう思うの。私達、ずっとニ人で一つだから、辛い事も半分こできる気がする。今までの辛い事、詩歌がいなかったらきっと受け止められていなかった」

何故突然響がそんな事を私に言うのかわからなかった。けれど、この複雑な家庭環境でもそれなりに楽しく過ごせているのは、間違いなく私達が双子だからだ。

 「そんなの当たり前でしょ?私達双子なんだから、いつでも半分こだよ」

「詩歌がこの世に生きててくれる事に、私は本当に感謝してるんだよ」

「響、今日は一体どうしちゃったの?双子感謝キャンペーン期間だっけ?」

月明かりだけ照らす、薄暗い部屋の中で響の「ふふっ」と言う、小さな笑い声がふんわりと落ちてきた。

 私達は、双子だから。

双子だから、お互いの事がよくわかるし、知りすぎている、、、。
響がこのちっぽけな家族を守る為に、どれだけ気を配って頑張っていたか、私は気づいていた。

 気づいていながら、何もする事ができなかった。ただ、響に甘えて私は子供のままでいたんだ、、、。

 けれど、それが許されたのも私が中学一年の一月まで、、、。

 中学一年の一月、バス停でバスを待っていた響は、雪で滑って突っ込んできたトラックに轢かれて、たった十三年で命を落とした───

 即死だった、、、。


 一瞬で一番近い存在の響は、私から一番遠い存在へと変わってしまった───