透明なトライアングル

 家に帰ると、須田さんが私を待っていてくれた。

 「須田さん、すみません。こんな長い時間待たせてしまって」

私が謝ると、須田さんは笑顔で私を安心させるように笑った。

 「気にしないで。大丈夫よ。お母さん今寝た所。ここの所、睡眠が浅かったみたい。少し薬を変えてもらった方がいいかもしれないわね。睡眠不足は、気分を落ち込ませるから」

私は、小さく長いため息をつきながら「そうですね」と頷いた。とりあえず、やっと安心して、不安から解消された気分だった。

 「あと、夕飯何品か作って置いちゃった。しばらく私の料理になっちゃうかもしれないけど、良かったら食べて」

須田さんはそう言って、大量のタッパーの蓋を閉めていた。私はそんな須田さんの顔をみていたら、安心したせいか不意に涙が溢れていた。
 須田さんの前で泣いた事など今まで一度もなかった。けれど、今日ばかりは須田さんがいてくれて助かったと心底思っていた。須田さんは、私の涙に気づいて私の側にくると肩を優しくさすった。

 「ねぇ?詩歌ちゃん、高校生になってもっと自由な時間が欲しいんじゃない?安心して友達と出かけたり、部活したり、学校の大切な用事もあるでしょ?もっと私が来る日数増やして貰おうか?」

 「でも、、、」

私が言いかけた所で、須田さんが私の手を握った。

 「お母さんは、詩歌ちゃんだけの母親だけど、一人で全部みようとしなくていいのよ?あなたはまだ子供なのよ?周りの大人に助けてもらって生きていかなければ絶対にだめ。私は詩歌ちゃんの味方よ」

須田さんの言葉に、胸が痛くなった。この人に何が出来るのかと、いつも差し伸べてくれていた手を跳ね除けていたが、私はこの人に確実に救われていた。

 「それにね、言ってなかったけど、実は私の夫も詩歌ちゃんのお母さんと同じ病気なのよ」

えっ───、、、。

 須田さんの突然の告白に、私は少し驚いた。

 「だからあなたが今不安な気持ち、私にもよくわかるの。辛いよね、、、私も同じ。だから少しでも力になりたい、お節介でも」

 私は何とも言葉が出てこなかった。ただ、この狭いようで広い世界には、様々な環境や事情を抱えた人がいて、自分ばかりが特別不幸な運命や境遇ではない事がわかった気がした。
 そして、響がいなくなってからずっと一人で暗闇を走り抜けている気分だったが、私は色々な人に支えられて生きている事に気がついた。