響は、母がピアノを弾いていた影響で、中学に入ると吹奏楽部に入部してフルートを吹きはじめた。
 私達双子は、地毛でも少し髪の毛が茶色い事から、中学に上がるとすぐに先輩に目をつけられた。
 響は元々の性格もあり、すぐに先輩と仲良くなり上手くやっていたが、私は生意気な性格も相まって、すぐに先輩に呼び出されて、いつも文句を言われていた。

 「またぁ?それでどうしたの?詩歌は言い返したの?」

「だって、一年皆んなが掃除しないでボール投げてたのに、私だけ呼び出されて、朝のボール拭きを一人でやれなんておかしくない?」

「それは、おかしい」

「でしょ?」

私は納得いかない顔で、夕陽が沈む海を睨みつけていた。海でも見たら、気が晴れるかと思ったがその逆で、真っ赤に染められる海を見つめていると、どんどん胸の奥がどす黒い感情で埋め尽くされていた。

 「詩歌さぁ、腹立つのはわかるけど、先輩達と上手くやらないと、自分が辛いだけだよ。
何も言い返さないで、むかついても先輩の言う事聞いてみれば?」

「響きは本当に大人だよね?双子なのに、どうしてこうも性格が違うのかな?本当は姉妹じゃないとか?」

私の言葉に響が思わず吹き出した。

 「これだけ、姿形がそっくりで他人だったら驚くよ。ほら!風が寒いよ、中に入ろう?先輩はいずれ詩歌より先に引退するんだし。何か言われるのも今だけだよ。ねえ、今日はアジフライだよ!詩歌の好きなタルタルソースもあるよ」

「アジフライ!?」

思わず私が繰り返すと、響が笑って私の肩に両手を置いた。食欲がないと言っていたが、大好物のアジフライは見逃せなかった。
 私と響きは冷たい海風に背中を押されて家に入った。気持ちは完璧に戻ったわけではなかったけれど、それでも響と話す前よりは幾分かましになっていた。

 玄関を開けると、母が青い顔をして私達を出迎えた。

 「ニ人とも何処に行ってたの?急にいなくなったからびっくりしたわよ。外に行くなら一言いってよ」

 私は、母の顔を見て何も言えなくなっていたが、響はすぐに優しい笑顔を母に向けて言った。

 「ごめんね、お母さん。ちょっと庭から海を眺めてたの。夕飯できたのに、遅くなってごめんね」

 響がお母さんの肩を抱くと、母は安心したような顔をして、一緒にリビングへ向かった。
私はニ人のそんな姿を見て、まるで逆転していると思った。母は娘のようで、響が子供を安心させる母のようだった。