透明なトライアングル

 「ほら、友達がいるみたいだよ。恥ずかしいからやめな」

女の人はそう言って奥のスナックに姿を消してしまった。伊織は驚いたような、気不味そうな
、何とも言えない表情で私を見つめた。
私は、海から吹く風を感じながら、伊織のまだ怒りのこもった瞳を見つめていた。全身から溢れ出していた熱い怒りが、この湿った涼しい風が冷ましてくれているように見えた。

 「なんでこんな所にいるんだよ。このコンビニ使わないんじゃなかったのかよ」

その時、プリンを買ったコンビニが、伊織のバイト先のコンビニだと気がついた。プリンを買いに行く事に夢中で、そんな事はすっかり忘れていた。

 「忘れてた。うちから一番近いコンビニだったから」

伊織が路地裏から私の方へ歩いてきた。そして駐車場の車止めに腰を降ろした。

 「あの女の人は、伊織のお母さん?」

私が聞くと、伊織は少しため息をついて「ああ」と小さく言ったが、その表情は酷く疲れている様に見えた。

 「驚いただろ?あんな母親で。うち、親父が事故で死んでから母子家庭なんだよ。母親がずっとあそこのスナックで働いてる」

伊織はそう言って目の前にある、きらきらと光っているスナックの看板に目配せをした。

 「お母さんに、何か取られたの?」

 「金だよ。あいつアル中で、酒が入るとわけわかんなくなって、男に貢いだりするから俺が金の管理してんだよね。まあ、さっきみたいに酔っ払って、無理矢理財布取ってったりするけど」

 「だから、毎日のようにコンビニでバイトしてるの?」

伊織は何がおかしいのかわからないが、少し笑った。その笑顔はいつもの明るい笑顔とは正反対に虚しさを感じた。

 「世の中金だよ、、、金がなきゃなんも出来ない。生きる事さえ無理だ。この世の中は残酷だよな」

"残酷だ"

「そうかもしれない」

私がそう言って笑うと、伊織は不思議そうな顔をした。

 「なんで人がこんな暗い、シビアな話しをしてるのに、お前はそんなに楽しそうに笑ってんだよ。感情どうなってんだよ」

「だって、嬉しくて、、、」

 「嬉しい?なんか嬉しい話ししたかよ」

「だって、学校で私以外に不幸な人間なんていないと思ってたから。こんな身近に"残酷"を感じている人間がいるなんて思わなかった。それが知れて、今は最高に嬉しい気持ち」

不謹慎だとは思うけれど、それが私の本音で心の苦しさが解けていくような、安心した気持ちになっていた。