透明なトライアングル

 私がお風呂から上がると、母がリビングのソファーに座ってテレビを見ていた。
バラエティー番組で、テレビの中のタレントが大騒ぎをしながら、美味しいプリンを紹介していた。母は無表情で毛布を被りながらそれを見ていた。

 「お母さん、お風呂入る?」

私が母の隣に腰かけて言うと、母は私の質問には答えずに、テレビのプリンを眺めながら「美味しそうね、、、」と無表情で呟いた。

 「食べたいの?」母はたぶん、今日は何も口にしていなかった。私はさっき最後の一個のプリンを食べてしまった事を後悔していた。

 「お母さん、コンビニでプリン買ってくるよ!待ってて?」

「もう、遅いわよ。危ないわ」

時計を見ると夜九時を過ぎていた。しかし、私は何でもいいから母に何か口に入れて欲しかった。

 「大丈夫だよ。塾に行ってる子達なら、今帰ってくる時間だよ?私もう高校生なんだから。自転車でさっと行ってくる」

「でも、、、」

母はまだ不安そうな顔をしていたが、私は「待ってて」と言って玄関に鍵をかけて飛び出した。
夜の海が不気味に大きく広がっていた。
街灯の電気が、もうきれるのかチカチカしていた。私は肌寒い風を切って自転車を走らせた。
 一番近いコンビニは、漁港近くの飲み屋街にあった。ここは田舎でも、夜になると少し賑わっている場所だった。
漁を終えた漁師達が、酔っ払いながらお酒を飲んで盛り上がっている声が、居酒屋の外に聞こえていた。

 私はコンビニの前に自転車を停めると、中に入ってプリンを探した。プリンはいくつか種類があったが、母がどれが好きそうだか、わからなかったので何個かかごにいれて、お会計をしてもらった。

 私が自転車のかごに、プリンが入った袋を入れて帰ろうとした時、コンビニの後ろから誰かの大きな声がした。最初は、酔っ払いが何か揉めているのかと思ったが、その声に聞き覚えがあったので、私は思わず自転車をまた停めて、見に行った。

 コンビニと飲み屋の間の狭い路地でニ人の影が重なるように揉めていた。

 「いい加減にしろよ!このアル中女!」

「親に向かって失礼な事言うんじゃないよ!こっちは、必死に働いてるだけだろ!全部お前を育てるためだろうが!」

 派手な容姿の女の人と、制服を着た男子が掴みあっていた。私は、その制服の男子が伊織だとわかるのに少し時間がかかった。
いつもの様な、友達と盛り上がって馬鹿みたいに笑ってる伊織ではなかったからだ。

 伊織は、その派手な女の人に掴みかかって、必死に何かを取り返そうとしていた。その表情はかなり切迫していて、物凄い形相で相手を睨みつけていた。つい何時間前に会った、おどけた顔をした伊織はそこにはいなかった。

 「女が夜働くには飲まなきゃ無理な事くらい、あんただってわかるだろ?じゃあね、あんたは先に帰ってな」

「ふざけんなよ!金返せよ!!」

伊織がそう言って振り返った時、私と目が合ってしまった、、、。