透明なトライアングル

 その後ニ人は何処のお店でご飯を食べるか話していた。私はそんなニ人の会話をまるで関係のないテレビを見る様な気分で眺めていた。

 部活に入って好きなスポーツをする事。
友達とおしゃれなお店でご飯を食べる事。
当たり前の青春時代の楽しい時間を、私は絶対に味わう事は出来なかった。
 母の心配をするだけで私の学校生活は終わってしまうのかもしれない。

 そう思うと、喉の奥から苦い嫌な物が込み上げてくる気がしていた。

 帰りのチャイムが鳴ると、バスケ部に入部する恵那と別れて、私は一人で自転車置き場にダッシュした。一刻も早く帰って母の顔を見て、安心したかった。
 自転車の鍵を開けて、ペダルを漕ぎ始めると後ろから声がした。

 「おーい!詩歌!」声を聞いただけで、誰だかわかったので、私は気づかないふりをして、ペダルを漕ぎ続けた。けれど、後ろの男もスピードを上げて自転車を漕いできたので追いつかれた。

 「はえーな!競輪の選手にでもなるつもりかよ」

「まいたつもりだったけど、しつこいなぁ、、、」

「お前大丈夫?心の声漏れてるぞ?俺に聞こえてるからな?」

「何かよう?伊織に関わると、いらない嫉妬を抱かれて、面倒な事に巻き込まれるから嫌なんだけど」

 私は今日、小池さんに言われた事を思い出していた。伊織と仲良くしたら、また何か言われるに決まっている。女の友達関係において、恋愛は物凄く重大な問題だ。嫉妬が絡むと大体悪口やイジメが始まるのは鉄板だ。

 「ああ、俺モテるからな?まあ顔がいいからな、仕方ないよな」

「自己肯定感ありすぎ。自分が思ってる程イケメンじゃないから」

「お前さ、俺の前と他のやつらの前でキャラ違い過ぎない?」

伊織の言う通り、私は伊織の前では優等生キャラにならないで、詩歌のままの自分でいた。
出会い方が変わっていたからか、伊織の性格のせいか、、、伊織の前でいい子を演じる意味がない気がしていた。

 「そうだよ?クラスでは優等生を演じてるからね」

「何でわざわざ?」

「本来の自分だと、問題起こしそうだから、、、。ひっそりと生きていきたいから邪魔しないでよ。何処がいいんだかさっぱりわからないけど、無駄にモテるあんたといると、都合悪い」

 私は遠回しに、関わらないでと言っていた。しかし、そうして私が突き放すと何故か伊織は私に興味が湧く様だった。

 「お前面白いなぁ!俺はダークな詩歌の方が好きだぜ?」

 「へぇ、物好きだね。じゃあ私急ぐから」

「なぁ!なんで毎日必死こいてはやく家に帰ってんだよ」

 「自分もそうじゃん!いつも早く帰るじゃん」

 「俺はバイト!この先のコンビニで夜九時まで働いてんだよ!暇な時遊びにこいよ!」

それで私と同じ様に、下校のチャイムと一緒にすぐ帰っていたのか、、、。

 「そうなんだ。じゃあ、もうあのコンビニ使えないじゃん」

「いや、使えよ!」伊織はそう言ったが、私は「じゃあね!」と言って家の方向へ自転車を走らせた。