入学式が終わって数日が経つと、クラスメイトの関係がだんだんわかってくる。自分の立ち位置や、グループ、そんなものが浮き彫りになってくると、自分の振る舞い方もわかってくる。
 私は、誰ともぶつからない様に当たり障りなく、上手く周りとやっていこうと細心の注意をはらっていたし、自分を出さないように目立たないようにしていた。

 伊織は、観覧車で言っていたように、女子に人気があるようで、チャラついてはいるが、顔がいいからと注目されていた。
 いつもうるさくて、クラスの中心にいるタイプで、そんな伊織の側には入学式でも一緒にいた小池(こいけ) 若菜(わかな)という、同じく目立つタイプの女子がいた。
 この小池さんを中心にしてクラスは回っていくんだろうと、入学式初日から予感はしていたが、本当にそうなっていた。

 学生時代なんて世界は学校だけで、それ以外の事は興味がないのが普通だと思うが、私にとったら反対で、私は常に母の事で頭がいっぱいで、学校生活なんてはっきり言ってどうでもよかった。
 私が学校に行っている間に、母が死んだりしないか、それだけが心配で怖かった。

 「詩歌?高校も本当に部活入らないの?女バス結構強いらしいよ?」

昼休み、一緒にお弁当を食べながら恵那が私に話しかけてきた。恵那は中学でもバスケ部で、高校ももちろんバスケを続けると話していた。

 「入らないかなぁ。私ニ年もブランクあるんだよ?今更バスケなんて出来ないよ」

「何言ってるの?大丈夫だよ!詩歌むちゃくちゃバスケ上手かったじゃん!もったいないなぁ」

そんな事を言われても、私がバスケを続ける選択肢はなかった。学校が終われば、ダッシュで家に帰って家事をした。
 母は気分がいい時は料理を作ってくれたが、そんな日は少なくて、ほぼ毎日私がご飯を作っていたし、家の掃除も私がしていた。

 「うわぁ〜最悪!また卵焼き甘いんだけど!何回も卵焼き甘くするなって言ってるのに、何で甘くするんだろう」

恵那が自分のお弁当を食べながら、母親が作ってくれただろうお弁当に文句を言っていた。
恵那のお弁当を見てみると、ウィンナーはタコの形をしていて、ハムは花の形をしていて、彩りも考えられていて綺麗だった。
 私は自分で作ったお弁当を見ると、何とか眠たい目をこじ開けて作った、適当すぎるお弁当で恥ずかしくなった。

 母が作ったお弁当に文句を言ったのは、いつの頃だったろうか。私が文句を言ったら、響は私に注意した『せっかくお母さんが作ったんだから!』あんなに小さい頃から、響はお母さんの気持ちを感じとっていた。

 何も考えずに、親の作ったお弁当に文句が言える。そんな当たり前の事が、私にとったら羨ましくて、妬ましかった、、、。