「詩歌、詩歌?」
玄関の扉が開く音がすると、響の私を呼ぶ声が聞こえた。
周りの人間は、私達の声がそっくりで「詩歌か、響か全くわからない」と言うが、私達は自分達の声が似ているなんて思った事は一度もなかった。
私達は一卵性の双子で、顔も身体も、ホクロの位置さえも同じで、いくら双子でもこんなに似ている双子はいないだろうと言われるくらいに、見た目にはほぼ重ならない部分はない程だった。だからか、母は小さい時から私の髪の毛はボブにして、響の髪の毛は長いストレートにして区別をつけていた。
しかし、性格と頭の出来は正反対で、私より五分早くこの世界の空気を吸った響きは、私の姉になり、五分早く産まれただけで性格まで完璧なお姉さんに育っていった。
響は優しくて、しっかり者。勉強もよくできて、周りの信頼も厚く、学校では必ず学級委員に選ばれる。その反対に、私は気だけが強く、勉強なんか大嫌いで、とにかく友達と遊ぶ事しか考えず、やんちゃばかりをして母を悩ませていた。
そのくせ、私は小さな事ですぐに落ち込み、ぐちぐちと弱気になり、いつも響になぐさめられていて、私は自分でも自分自身がとても不完全な人間で、とてもこの世界で一人では生きていけないから、完璧な響と双子として、この世に生を受けたのだと感じていた。
「詩歌!こんな所にいたの?もうご飯出来たよ」
響が呆れた顔で私を見つめると、夕方六時を知らせるチャイムが鳴りはじめた。
東北に位置するこの土地は、冬は雪深く、真夏ですら、午前中は気温が上がっても午後には"やませ"がやってきて、霧と共に冷たい風が海から吹き、一気に気温が下がり肌寒くなる。
この日も八月だというのに、午後はストーブをつけたいくらいに寒かった。
家の裏は、目の前が海で紺色の大きな太平洋が広がっていた。その海の上を大きな音をたてて自衛隊の飛行機が凱旋していく。私の住んでいるこの町には、自衛隊の基地があり、常日頃から飛行機が飛び回っていたので、この大きな耳を貫く騒音も慣れたものだった。
「食欲ないの」
私が、海の方を眺めながら響に言うと、響も私の隣のブロック塀に腰をかけて、イカ釣り漁船に目をやった。
「何?また先輩に何か言われたの?」
何があったか説明しなくても、響は私の考えている事が直ぐにわかる。テレパシーを使っているように、私達はお互いの心のうちをわかりすぎるくらいに、知っていた。
「生意気だって。練習が終わった後、私だけ呼び出された」
私が響より上回る事が出来るものと言えば、運動神経くらいしかなかった。昔からスポーツだけは、何をやっても得意だった私は、小学生の頃からミニバスを始めて、中学に上がるとバスケ部に入部した。
玄関の扉が開く音がすると、響の私を呼ぶ声が聞こえた。
周りの人間は、私達の声がそっくりで「詩歌か、響か全くわからない」と言うが、私達は自分達の声が似ているなんて思った事は一度もなかった。
私達は一卵性の双子で、顔も身体も、ホクロの位置さえも同じで、いくら双子でもこんなに似ている双子はいないだろうと言われるくらいに、見た目にはほぼ重ならない部分はない程だった。だからか、母は小さい時から私の髪の毛はボブにして、響の髪の毛は長いストレートにして区別をつけていた。
しかし、性格と頭の出来は正反対で、私より五分早くこの世界の空気を吸った響きは、私の姉になり、五分早く産まれただけで性格まで完璧なお姉さんに育っていった。
響は優しくて、しっかり者。勉強もよくできて、周りの信頼も厚く、学校では必ず学級委員に選ばれる。その反対に、私は気だけが強く、勉強なんか大嫌いで、とにかく友達と遊ぶ事しか考えず、やんちゃばかりをして母を悩ませていた。
そのくせ、私は小さな事ですぐに落ち込み、ぐちぐちと弱気になり、いつも響になぐさめられていて、私は自分でも自分自身がとても不完全な人間で、とてもこの世界で一人では生きていけないから、完璧な響と双子として、この世に生を受けたのだと感じていた。
「詩歌!こんな所にいたの?もうご飯出来たよ」
響が呆れた顔で私を見つめると、夕方六時を知らせるチャイムが鳴りはじめた。
東北に位置するこの土地は、冬は雪深く、真夏ですら、午前中は気温が上がっても午後には"やませ"がやってきて、霧と共に冷たい風が海から吹き、一気に気温が下がり肌寒くなる。
この日も八月だというのに、午後はストーブをつけたいくらいに寒かった。
家の裏は、目の前が海で紺色の大きな太平洋が広がっていた。その海の上を大きな音をたてて自衛隊の飛行機が凱旋していく。私の住んでいるこの町には、自衛隊の基地があり、常日頃から飛行機が飛び回っていたので、この大きな耳を貫く騒音も慣れたものだった。
「食欲ないの」
私が、海の方を眺めながら響に言うと、響も私の隣のブロック塀に腰をかけて、イカ釣り漁船に目をやった。
「何?また先輩に何か言われたの?」
何があったか説明しなくても、響は私の考えている事が直ぐにわかる。テレパシーを使っているように、私達はお互いの心のうちをわかりすぎるくらいに、知っていた。
「生意気だって。練習が終わった後、私だけ呼び出された」
私が響より上回る事が出来るものと言えば、運動神経くらいしかなかった。昔からスポーツだけは、何をやっても得意だった私は、小学生の頃からミニバスを始めて、中学に上がるとバスケ部に入部した。



