全ての授業を恙なく終えて、放課後。

 陽射しが強くなってきた夏の暑さを不快に感じながら、皆がそれぞれ帰路に着く。

 活気づいてはいない商店街でアイスを食べようとする者、熱中症の危険を顧みず外でサッカーする者、島の外の大学を受験するために勉強する者、各々が目的を持って行動する。

 ちなみにだが、部活動に励むものは少ない。美術部や陸上部などの個人競技なるものは存在するが、チームプレイが必要となる部活動は人数的無理があるため最初から存在しないのだ。

 だから必然と帰宅部が多くなる。


「千青、今日美術部来ない?」
「……やめとく。また今度遊びに行くよ」
「わかったー、じゃあまた明日ね!」
「ん、またあした」


 課題を忘れる美術部友人の誘いを断り、私はスクールバッグを肩にかけた。それから古い機種のスマホで母に連絡を入れて蒸し暑い箱の中を出る。

 夏の湿気と熱気が篭もる教室は拷問だ。

 下駄箱で上靴からローファーに履き替え、燦々と照る太陽を睨みつけながら、愚痴を飲み込んで直射日光を浴びた。


「……あつい」


 よく男子はこの炎天下の中、ボールと一緒に駆けずり回ってられる。私なら1分も持たずにお陀仏だ。

 中高一貫の校舎から出て、ボールが飛んでこないよう願いながら私は無駄に広い学校内の敷地を足早に去った。

 蝉の鳴く声、波の音、木の葉が揺れる音。

 学校が建てられてる場所は山の麓で、なだらかな斜面を下ると道路と堤防がある。太陽が反射して眩しい海が顔を出していた。波の音を聴いて日陰を探しながら数分で着くバス停を目指す。何も変わらない。

 自転車通学の男女が笑い合いながら、億劫に足を動かす私の横を通り過ぎた。その男女の背中を自然と目で追っていると、ふと目の前をのろのろ歩く溶けたチョコレート色が視界に飛び込む。

 足元が危うく、今にも倒れそうな背。


「……」


 僅かに思案した後、私は彼の横を走り抜け、目と鼻の先にあるバスの停留所の横にある自販機でスポーツ飲料を買い、亀な足取りの彼の元に走って戻った。


「碧海くん、これ飲んで」
「……ん?」
「倒れられても、私だと運べない。とりあえずこれ飲んでバス停まで耐えて」


妙に色気のある顔をこてんと傾けた彼に、私は早口で伝える。そして押し付けるようにペットボトルを渡し、どこかマイペースな彼の腕を引っ掴んでバス停まで向かった。