荷物は小さなボストンバック1つ。

 青い猫のぬいぐるみを抱きしめて、私は今日この島を出る。手を繋いで隣にいるのは、縹色の瞳の彼。船が来るまでの間、私は彼に問いかけた。


「私のこと、いつから好きだったの」


 淡く照れた顔で微笑む九条碧海は、私のおでこにキスをひとつ落とす。

 整った顔が、ふにゃりと蕩けた。


「小学生の時、虐められて図書室で泣いてた僕に、君が小難しいミステリー小説を渡してきた日からだよ」
「……は?」
「卒業式の次の日も、君に告白できなかったことを後悔しすぎて寝れなくて……、だから伝えたくて会いに行ったんだ。あの時会えたのは幸運だった」


 私が父を殺した日のことを、幸運だったと言えてしまう彼は、紛れもなく最初から私と一緒になる運命だったのだろう。


 船が到着して、私たちは乗り込む。

 かなり遠回りをした私たちは、今日という日に出立する。


 なんだろうね、この気持ちは。